宇宙太陽発電システム（space solar power system (SSPS)）のような巨大な宇宙構造物は既に30年以上前からいろいろ提案されており，現在も研究が進められています．

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例えば，Mankinsは，NASAのNIACプログラムのphase 1のレポート[1]の中で，"SPS-ALPHA"というSSPSの設計案を示しています．右の図はSPS-ALPHAの概念図です．この構造物のサイズはレポートには厳密には示されていませんが，数kmのオーダーのものと思われます．彼は，このような巨大な構造物を，宇宙ロボットを用いて構築する方法や，姿勢制御も含む全体システムの運用方法を提案していています．それらも含め，このレポートには，SPS-ALPHAを実現するための様々な提案がなされています．日本では，JAXAやJ-Space Systemsがそれぞれ異なるSSPSを提案していますし，中国も提案しています．

しかし，残念なことに，SSPSについては，小型のスケールモデルですら，まだ，打ち上ってはいません．現時点では，宇宙機の打ち上げも含むSSPS関連の宇宙プロジェクトはないようです．したがって，このような構造物の研究は，現在までのところ，数値解析と地上実験にとどまっています．

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最近，スターシェード（オカルタ―）というコンセプトが，恒星付近の惑星の観測方法として提案されています[2]．このコンセプトでは，薄い膜のような，大きな平面構造物（スターシェード）を恒星と宇宙望遠鏡との間に置き，恒星からの光が望遠鏡に入射しないようにして，高コントラストの画像を望遠鏡で得られるようにしています．そこでは，スターシェードの適切な形状が研究されていて，花びらのような形状が文献では提案されています[3]．その提案では，構造物は薄くて大型の膜の外枠に剛なフレームが取り付けられていて，スターシェードの直径は50m程度です．折り畳み・展開方法も提案されています．しかし，我々は，提案された方法はやや複雑で，折りたたまれた構造物を高い信頼度で展開することを保証するのは容易ではないと考えています．

また，これらの構造物は極めて軽量でなくてはなりませんが，そういった要求は膜やケーブル，細い柔軟梁といったゴッサマー構造により満たすことができます．こういった背景を考慮し，我々はこういった構造物を宇宙で実現する方法を研究しています．ただし，単なるペーパーワーク（論文発表）だけではなく，より戦略的な研究・開発を目指しています．

さて，こういった構造物を実現するためのキーテクノロジーとしては以下のようなものが挙げられます：

1. 大口径の平面あるいは曲面を有する超軽量構造物の折り畳み，ラッチ，ラッチ解除，展開
2. ミッションを達成するために必要な剛性を担保すること
3. ミッションを達成するために必要な形状精度を担保すること
4. 巨大な構造物を構成するための，構造要素（モジュール）の組み立て

ポイント2については，SSPSやスターシェードは，高周波数のアンテナや望遠鏡に比べると，それほど高い剛性は必要としませんが，それでも，ある程度の剛性は必要とします．それは，IKAROSのようなスピニング・ソーラーセイルよりも大きいものでしょう．我々は，宇宙機全体の設計を含む，ミッションを達成するために必要な剛性や重量を明確にするか，あるいは，提案する構造の典型的な設計値を与えなければなりません．

ポイント3については，SSPSの太陽光反射板やスターシェードは，高周波数のアンテナや望遠鏡に比べると，それほど高い形状精度を必要としませんが，ある程度の適切な形状精度は必要とします．それは，ソーラーセイルの要求精度よりも高いでしょう．

ポイント4については，ロケットからの構造モジュールの放出，それぞれのモジュールの軌道上展開，ランデブー，モジュールの結合といったもののシナリオを考えなければなりません．結合フェーズでは，我々は，自動結合システムか，分散（群）ロボットシステムを必要とすることになるかもしれません．

我々の研究室では，2つのコンベックステープをエッジで向かい合わせに接触させた，バイコンベックスブームを用いた自己展開トラスの研究を行っています．我々は，自己展開トラスは大型宇宙構造物の構造要素に適していると考えており，構造物について総合的に研究を進めています．すなわち，我々の研究は，右図の通り，理論，数値解析，実験，小型のデバイスや小型の構造スケールモデルの宇宙実証，そして，応用モデルのすべてを含んでいます．

例えば，我々は，バイコンベックスブームを用いた自己展開トラスの実現可能性を調べるために，以下のような研究・開発・検証（RD&V）を行っています：

1. バイコンベックスブームにおける2つのコンベックステープの接触問題を考慮した，ブームの曲げ特性・ねじり特性の評価 [5, 9]
2. ハブに巻き付けられたブームの自己伸展力および展開中におけるハブからの非剥離条件の理論予測 [10]
3. 動特性の評価 [6]
4. 自己展開トラスの設計，すなわち，ブームの厚さを考慮した，ノードやブームの設計
5. 膜の厚みを考慮した折り畳み理論の構築 [11]
6. トラスの展開および収納特性の評価 [6,7,8]

我々は，展開実験を行い，収納と展開の成功を確認することで設計法を検証しています．以下の動画にある通り，我々の手法は自己展開トラスの設計に適用することができます．

我々は微小重力下での展開実験も行っています．

我々の今の興味の中心は，膜面の収納方法，打ち上げ時のラッチとラッチ解除のための保持・解放機構です．下の図は，膜の厚さを考慮した膜面の折り畳みパターンの例と，トラスを超小型衛星に搭載する方法の例，そして，3次元自己展開トラスから成る曲面の例を示しています．

Folding pattern		micro-satellite with self-deployable truss		Self-deployable curved surface

我々は，こういったトピックスについて，2017年，2018年に論文を発表していく予定です．

この研究は，科研費による研究" 大型ゴッサマー多体宇宙構造物の運動予測法の確立と運動の理解"の一環として行っているものです．