【2017年3月更新】

これまで，様々な大型宇宙構造物の概念が提唱され，研究が進められてきました．しかし，安全保障上，秘匿されている海外の大型衛星を除けば，100mを超えるような宇宙構造物は国際宇宙ステーション以外には未だ実現していません．一方，超小型衛星を利用した地球観測や宇宙探査は急速に注目されつつあります．実際，多くのベンチャー企業がこの分野に参入し，超小型衛星を用いた様々なミッションを提案し，宇宙を利用しようとしています．宇宙はいま，ビジネスの場として着実に発展していますし，宇宙科学の分野でも，超小型衛星で月や惑星を探査するミッションが，2018年以降，続々と実現してゆくことでしょう．

	Solar Power Sail, ©JAXA [1] https://pbs.twimg.com/ profile_images/ 740860715318157312/ zijXo6_f.jpg

では，今後，宇宙に関する活動は，どの方向に向かってゆくのでしょうか？やはり，超小型衛星を用いたビジネスや宇宙科学ミッションが主流となってゆくのでしょうか？あるいは，中型機・大型機による深宇宙探査や，大型衛星を用いた高度な観測ミッション，通信ミッションなどでしょうか？

Star Shade, [2] https://www.spaceanswers.com/ wp-content/uploads/2014/12/Screen-Shot-2014-12-15-at-13.34.44.png

我々は，今後，人類の生活が宇宙の中で発展してゆくためには，大型，あるいは巨大ともいっていいような宇宙機／宇宙構造物が必要となってくるのではないかと考えています．例えば，ソーラーセイル／ソーラー電力セイル[1]は，100m級の膜を展開し，太陽系の惑星探査，あるいは，地球の公転面から飛び出して太陽を探査をすることになるかもしれません．宇宙望遠鏡はますます巨大化し，数十m級の望遠鏡で，宇宙の起源の謎を解くような観測やブラックホールの構造を解き明かすような観測，あるいは，生物が生存可能な惑星の発見が可能となるかもしれません[2]．宇宙望遠鏡と太陽系外の恒星の間に数十m級の膜面を配置し，恒星からの光を遮断することで，恒星の周りを周回する惑星の精密な観測が可能となり，生命体の発見が現実となるかもしれません[3]．また，地球観測や衛星通信に関しても，巨大なアンテナやレーダーを用いることで，より高度かつ精密なミッションが実現するかもしれません．100m規模の反射板を用いて光を照らすようなことが行われることがあるかもしれません．衛星で軌道上に電力を供給する宇宙太陽光発送電システムが実現するかもしれません．

	Large Membrane Mirror, [3] http://files.abovetopsecret.com/ files/img/jq53545065.jpg

これらは，現時点では不可能で，「あり得ない」こと，「できるはずがない」ことかもしれません．しかし，そういったことに真摯に挑戦していき，実現していくことが，これからの大学の研究者には求められているのではないでしょうか．

実際，3Dプリンタをはじめ，様々なものづくりの技術が日常生活の中で簡単に手に入るようになり，誰もがものづくりをできる世の中となり，誰もがIOTの主役になれる世の中になってきました．情報についても，誰もが簡単に最新の情報を手に入れ，Big Dataを扱える世の中になりつつあります．それに伴い，研究者は，従来の科学・技術の延長線上にいたのでは，自身の存在意義を見いだせなくなってきています．

そのような状況の中で，大学の研究者に求められているものは，今までにも増して，誰もが「できるはずがない」と思って手を出してないような技術やミッションに挑戦することだと思います．そのためには，従来の理論や技術を徹底的に高めていくことはもちろんのこと，従来にない理論や技術を新たに構築してゆく必要があるでしょう．そのためには，基礎となる理論の発展も必要でしょう．そうやって，「普通ならできそうにないが，誰かがやってくれるとありがたい」ということを実現し，社会に貢献してゆくことが，これからの研究者に求められているのだと思います．

そこで，我々は，上述のような先進的な宇宙構造物の実現に向けて，まずは，そこで必要となる理論や技術を「究める」活動を進めていきたいと考えています．具体的には，次のような活動を進めていくつもりです．

		現在，構造工学や材料工学の研究者をはじめとする宇宙構造物に関連した日本の研究者が集まり，今後の宇宙構造物工学研究のロードマップを作成中です．このロードマップに沿って，要素技術の開発や将来の先進的な宇宙構造物の研究を進めていくつもりです．
		先進宇宙構造物の実現に向けて，要素技術やシステム技術を究めてゆく研究会のようなものを関係者とともに立ち上げ，「できそうにない」と思われていることを実現する道筋を見つけ，実現に向けて挑戦していくつもりです．
		学科内にも，先進宇宙構造物について議論し，設計・解析に必要となる理論や数値解析に関するゼミ，試作や実験，宇宙実証に向けた超小型衛星の設計などを行う，学生・教員向けの研究会（先進宇宙システム研究会）を立ち上げ，上記の研究会と連携していきたいと考えています．そういった活動を，このサイトやブログ，SNSなどで発信してゆくつもりです．