CanSatは既に多くの大学や高校で教育ツールとして使われているので，説明する必要はないかもしれませんが，以下に簡単に説明したいと思います．

Cansatとは，350ml缶サイズ，あるいはその3倍程度のOpenClassと呼ばれるサイズの模擬人工衛星のことです．アンテナや通信機，マイコンや各種センサを搭載し，アマチュアロケットや気球等で上空まで持っていった後，大気中に放出し，パラシュートやパラフォイルでゆっくりと落下してゆく過程で様々なミッションを遂行するというものです．Cansatプロジェクトは1998年の日米大学宇宙システム会議（USSS）においてStanford大のTwiggs教授が提唱したプロジェクトで，1999年の夏から，ネバダ州ブラックロック砂漠にてアマチュアロケットを用いた打ち上げ模擬実験（ARLISS）が毎年開催されています．アマチュアロケットで上空2，3km程度まで打ち上げられ，ロケットから放出された後，CanSatに取り付けたパラシュートが開傘し，ゆっくりと落下する間にCanSatはミッションを遂行します．ミッションとしては，センシングや通信，フォーメーションフライト，展開／伸展，探査，あるいは，目的地への到達など，様々なものが これまで行われています．ミッションを考えることもCanSatの面白さ・楽しさの一つと言ってもいいかと思います．

このプロジェクトは，学生による人工衛星開発の手始めとして，その登竜門的なプロジェクトとして出発しています．はじめは日本からは東大と東工大のチームだけが参加していましたが，2年目の2000年からは我々の研究室も参加するようになりました．現在ではNPO法人UNISECがARLISSの取りまとめをおこなっている他，いくつかの大学がCansatを学生教育等に利用しているようです．また，高校生向けに「缶サット甲子園」という大会も開催されています．CanSatについては，既にUNISECの教員の執筆によるテキスト「CanSat −超小型模擬人工衛星−」も販売されています（宮崎，山�ｱも執筆しています）．是非，読んでいただきたいです．

ARLISSに参加する多くの研究室では，4月頃からプロジェクトを開始し，約5か月後の9月にARLISSにて実験をし，成果をまとめるというのが恒例行事となっています．我々の研究室も，2009年度までは，毎年，ARLISSに参加し，ARLISS後に報告書を毎年作成し，次の年にノウハウや考え方・心構えといったものつないでいくようにしていました．ただ，SPROUTの開発，あるいは旅費がかかるということもあり，それ以降は参加していません．それに代わって，日本で気球を使ってCanSatを100〜150m程度の上空から落下させて実験を行っており，対象も，研究室の学生ではなく，低学年の学生にシフトしていて，新入生プログラムの中で実施することが多くなっています．実際，二和校地でのCanSatの気球実験を最終課題とする新入生プログラムの一つの形が出来上がったのが，2010年度の新入生からであり，これ以降，気球実験でCanSatを評価する機会が多くなりました（しかし，SPROUTも打ち上がり，運用も落ち着いてきましたので，ARLISSに参加することを希望してくれる学生さんが出てこないかなと思っているところです）．

Cansatの開発で重要なことは，「Cansatで何を目指すか？」ということだと思います．ただ単にCansatを作って飛ばして，「ああ，楽しかったなあ．いい思い出になったなあ」というのでは，ちょっと寂しいというか，幼稚すぎるかと思います．次のステップへの通過点として，しっかりと狙いを定めて参加することが大切なのだと思います．ただし，目標はなんであれ，一番大切なのはチームを組んでスケジュールに則って開発を進め，ARLISSの結果を事後によく整理・反省することだと思います．スケジュール管理は「言うは易し，行なうは難し」で，なかなか思うようには行きません．最後は責任感がものを言う世界です．

そういう意味では，CanSatは「ものづくり」というよりは，衛星に関する基礎知識を学びながらプロジェクト・マネージメントを体得するためのツール，そして，何よりも，衛星ミッションについて深く考えるきっかけづくりのためのツール考えるとよいかと思います．自分達にとって面白く，CanSatで実現可能で，かつ，周りの人達にもやる意義・価値があると思ってもらえるようなミッションを考えることは，それほど簡単ではありません．自分達なりにロジックを組んで，「これこれこういう理由で，このミッションは意義のあるものです」と胸を張って言えるようなミッションを考える過程は，衛星開発にそのまま通じます．是非，CanSatで「これは面白い！」というミッションを実現してみてください！

我々航空宇宙工学を学ぶ研究室にとって，電子回路の塊であるCansatを開発することは容易ではありませんでしたが，毎年ノウハウを積み重ねてきて，現在では「そこいらの電気工学科や電子工学科の学生には負けないぞ」というくらいのレベルにはなったと思います．航空宇宙工学科の学生にとって，ダブルメジャー（自分の専門分野の他にもう一つ，サブメジャー的な分野を学ぶこと）にぴったりなのがCansatの開発なのではないかと思います．