この研究は，次のメンバーを中心に進めています：設樂翔一・中村壮児（オカルタ形状設計），福永桃子・片岡星太（構造解析・システム設計），河原林大思，高坂大樹（構造系設計），宮崎康行（とりまとめ）．

現在，太陽系外に「Habitable exoplanet」（ハビタブルプラネット）と呼ばれる，生命が存在可能と思われる系外惑星（太陽系外の惑星）が数多く見つかっていて，そのデータベースは海外でも日本でも既につくられています．NASA/JPLは"Habitable Exoplanet Imaging Mission (HabEx)"を検討中です．

Habitable exoplanetの候補となる系外惑星は，一般に，太陽のように光を放つ恒星の周りを周回しています．したがって，系外惑星を望遠鏡等で直接観測しようとしても，恒星が放つ光が強すぎて，系外惑星を検出することは困難です．実際，これまで，太陽系外の惑星を直接観測した例はないそうです．

そこで，現在，系外惑星は間接観測により調べられています．間接観測法とは，系外惑星ではなく，別のものを観測することで，系外惑星が”そこ”に存在している証拠をつかむという方法です。間接観測法には，ドップラー法（視線速度法，ドップラー偏移法）やトランジット法と呼ばれるものがあり，これらによって，多くの系外惑星が発見されました。また，質量や大きさ，組成など，系外惑星に関するある程度の情報もこれらの観測によって得られています。

これに対し，恒星からの光を遮ることで，系外惑星を直接観測する方法がNASAで検討されています．方法は2つあり，一つはコロナグラフ，もう一つはスターシェードです[1,2]．コロナグラフは，望遠鏡の検出器の手前に光の遮蔽物を置くことで，恒星からの光だけを遮り，系外惑星からの光を観測するものです．これに対し，スターシェードは，望遠鏡衛星と恒星との間に数十mの遮蔽物（オカルタ）を置くことで，恒星の光を遮ろうというものです．両者を併用することも可能です．右の図はスターシェードの概念図です．現在検討されている例では，オカルタの直径は30〜80m程度，オカルタ衛星と望遠鏡衛星との距離は数万kmです．

スターシェードを実現するには，1) 望遠鏡衛星とオカルタ衛星との精密なフォーメーションフライト，2) 適切な形状のオカルタの展開，3) 系外惑星からの微弱な光の分光観測の3つの技術が必要となります．3)については，間接観測技術を適用することで実現可能です．これに対し，1)と2)の技術はまだ実現していません． そこで，我々の研究室では，系外惑星観測の科学について勉強しながら，オカルタの形状設計法を研究しています．

光の回折の影響を考慮すると，最適なオカルタは，光の透過率A(r)が半径rの方向によって右図のように変化するものであることが計算から得られます．しかし，透過率が連続的に変化する膜を製造することは容易なことではありません．

そこで，左図のように，最適なオカルタと透過な花弁型のオカルタが提案されています[3-5]．左のコンター図は，オカルタを設置した場合の望遠鏡の瞳面での光のコントラストの分布を表しています．コントラストの値が小さいほど，恒星の光を遮ることができます．この図では，円の中央に望遠鏡の検出器があり，コントラストが非常に小さくなっていることがわかります．

そして，これらの自己展開トラスを用いると，右図のような花弁状の膜面トラスを展開することができると我々は考えています． しかし，このような曲線形状の膜面を形成し，形状・剛性を維持することは簡単ではありません．実際，先端の花びらの部分は，NASA/JPLが考えているような，曲線梁を枠とする柔軟な薄板になると考えられ，形状精度と剛性の維持が課題となります。
そこで，我々は，左図のような，外周を直線状の自己展開トラスで構成し，かつ，高いコントラストを実現するオカルタを研究しており，今後，学会等で発表していく予定です．