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ほどよしプロジェクト

我々は,平成21年度末から25年度末まで実施された,内閣府の最先端研究支援プログラム(FIRSTプログラム)の一つ,「日本発の『ほどよし信頼性工学』を導入した超小型衛星による新しい宇宙開発・利用パラダイムの構築」(中心研究者:中須賀真一・東大教授)に,超小型人工衛星用の「展開構造の研究開発」という研究テーマで参加していました.プロジェクト全体については,東大の超小型衛星センターのページを参照ください.

通称,「ほどよしプロジェクト」と呼ばれたこのプロジェクトでは,約4年ちょっとのプロジェクトの間に4つの50~70kg級の超小型衛星が開発され,そのうち,ほどよし1号,3号,4号が平成26年に打ち上げられました.その詳細については以下を参照ください.

我々の研究室では,研究室の卒業生で,当時,研究員だった荒木友太さんが中心となって,メーカーさんと共同で,以下の研究・開発を行ってきました.

  1. 展開構造のためのシンプルで信頼性のある展開デバイス
    1. シンプルで信頼性のある保持・解放機構(HRM)
    2. ラッチ付き小型バネヒンジ(タイプ1)
    3. ラッチ付き小型バネヒンジ(タイプ2)
    4. インフレータブル展開構造物用SMAバルブ
  2. 高精度展開パネル構造
    1. 将来のSARミッションを意識したコンセプトモデルの試作研究
    2. 展開性評価法および許容製造誤差算出法
  3. 制振デバイス
  4. デオービット用展開膜の設計法

右の写真はHRMとタイプ1のヒンジを表しています.これらは太陽電池パネルの展開用に開発したもので,UNIFORM-1,ほどよし3号,4号,PROCYONの計4機,合計10セットを平成26年に宇宙実証しました(平成27年現在,ノーミスです).

また,右の写真はタイプ2のヒンジ(のコンセプトモデル)とSMAバルブ((株)ウェル・リサーチと開発)で,両社とも宇宙実証済みです.


右図は自己展開式の三次元トラスをバックストラクチャとした,高剛性高精度展開パネルの概念モデルを表しています.ジョイントには大歪で折り曲げることができる単結晶形状記憶合金を使っています.

右図は衛星搭載機器の振動を低減するための制振デバイスの写真です.ネジの代わりに取り付けるタイプです.これも(株)ウェル・リサーチと開発したもので,同社とは,引き続き共同研究を進めています.


それから,デオービット機構については,右図のように,コンベックステープを伸展部材とする膜面を考え,運動解析を行い,テープが収納機構内でスタックしない条件を導きました.


この他,右図のような多重折り畳みパネルを超小型衛星でフェイズドアレイアンテナ等として利用することを想定して検討し,特許を取得しています.

また,ほどよしプロジェクトでは人材育成や海外のCapacity Buildingも行っており,その一環として,UNISECがCLTP(CanSat Leader Training Program)を開催していました(プロジェクト終了後も,UNISECが継続して行っています).我々は,CLTP2を船橋キャンパスでUNISECと共催するとともに,CLTP3以降も講義等で協力を続けています.

このプロジェクトでは,当該分野の多くの方々と連携できたことや,プロジェクトの進め方,超小型衛星の開発手法など,様々なことを学ぶことができ,その後の研究・開発に役立っています.また,「ほどよし信頼性工学」については,宇宙機関が出している設計標準に変わるようなものを多くの方が期待されていると思うのですが,個人的には,このプロジェクトに参加してみて,「ほどよし信頼性工学」とは,従来のものとは少し違った製品開発の手法だと実感しています.

通常,製品は「壊れない」,「思った通りに動作する」ということを前提に設計・開発がなされます.特に,ロケットや人工衛星など,一発勝負で修理ができないシステムは,この点が徹底され,それが高い信頼性要求につながっています.しかし,超小型衛星に関しては,「動かない可能性がある」ということを前提に設計・開発をしています.それは,まだよくわかっていない不確定な現象が起こり得る(例えば,多くの超小型衛星が,打ち上げ直後の数週間の間に,原因を特定しづらい,何等かのトラブルに見舞われることが多いなど)ということに起因しています.そこで,「動かない可能性」を排除しようとすると,優れた性能の部品・機器を使い,様々な試験を行って高い信頼性を確保しようという方向に動くと思われます.しかし,そもそも,不確定な現象に対しては,どんな部品・機器でどんな試験をすれば,「(ほぼ)確実に動く」と言えるのかがわかりません.

また,信頼性の確保の仕方は,与えられた時間と予算に応じて変わるはず,ということも実感しています.「この信頼性確保の手法を用いるために必要な時間と予算を予め用意する」という前提での開発であれば問題ないのですが,「この信頼性確保の手法だとこれくらいの時間と予算がかかる.でも,この手法であれば,これくらいの時間と予算だけで足りる」といった状況が起こり得て,その場合,どちらの手法を選ぶかが問題になるのだろうと思います.

これを超小型衛星以外にあてはめるとすると,「よくわかっていない現象や,可能性は低いが起こるかもしれない現象に対して,どこまで動かない可能性を排除するのか」,「時間と予算に応じて,いかにして適切な信頼性確保の手法を選ぶか」,という問題になるでしょう.前者の問題の場合,やはり,上記のような信頼性の確保の仕方ではなく,例えば,単純に「リセットをかける」であるとか,「回路冗長を組む」であるとか,「様々なコマンドを用意する」であるとか,「ソフトの書き換え機能を持たせる」であるとか,「他の機器を使って同様の機能を肩代わりする」であるとか,「少々,重量や容積がかさんでも,よりシンプルなものに代えて,その分の重量や容積増を他でカバーする」であるとかいったこともあるでしょう.後者の場合でも,時間と予算が限られれば限られるほど,同様の対応をする傾向が強まるでしょう.別の言い方をすれば,時間と予算に応じて,信頼性の確保の手法は変わってくるだろう,ということです(そして,その判定基準となるのが,それぞれの手法における「作業量」になるのかなと思われます).

結局のところ,「個々のコンポーネントやサブシステムに要求をキッチリと振り分けるのではなく,システム全体で必要な要求満たせばよい」,「その際,単純に同じサブシステムを複数用意して冗長にするというのではなく,一つのシステムの中で,一つの機能を複数のルートで実現できるようにしておく」という考え方や,「動かないことを前提に設計する」といったことが,結局のところ,ミッションの成功確率の向上という意味での「信頼性」を低コストでも高めることができる場合(=よくわかっていない現象が起こる場合,可能性は低いが起こるかもしれない現象が多くある場合,予算や時間が極端に限られている場合)がある,ということなのかなと感じています.

[reference]

高野忠, 宮崎康行, 展開型フェーズドアレイアンテナ, 特許第5672606号, 2015年1月9日.

荒木友太, 吉野達也, 宮崎康行, 小型人工衛星用パネル展開機構の軌道上成果, 第58回宇宙科学技術連合講演会,JSASS-2014-4515, pp.1-5, 2014年11月12日~14日,長崎ブリックホール,長崎, 2014.

村田亮, 井上翔太, 宮崎康行, 「宇宙構造物の伸展部材用コンベックステープの展開挙動」, 第56回構造強度に関する講演会講演集, 1A17(JSASS-2014-3018), pp.45-47, 平成26年8月6日~8月9日, 浜北文化センター, 2014.

Tetsuya Isomura, Tatsuya Yoshino, Masaki Kano, and Yasuyuki Miyazaki, "Analysis Method of Deployment Mechanism of Panel Structure for Micro Satellite", Digital Proceedings of 29th International Symposium on Space Technology and Science (ISTS2013), 2013-c-25, pp.1-6, Jun 2-9, 2013, Nagoya Congress Center, Nagoya, Japan.

荒木友太, 宮崎康行, 山口耕司, 「超小型衛星用パネル展開デバイスの開発」, 第56 回宇宙科学技術連合講演会講演集, 2M09, JSASS-2012-4475, pp.1-4, 平成24年11月20日-22日, 別府国際コンベンションセンター, 2012.

Tatsuya Yoshino, Yuta Araki, Yasuyuki Miyazaki, "Development of a hold release mechanism of a panel structure for Nano-Satellite", International Conference on Space, Aeronautical and Navigational Electronics 2012, pp.1-5, October 10-12, The SONGDO CONVENSIA, Incheon, Korea, 2012.

Yasuyuki Miyazaki, Yuta Araki, Tetsuya Isomura, Masaki Kano, "A Simple Deployment Mechanism of Panel Structure for Micro Satellite and Its Verification", 63rd International Astronautical Congress, IAC-12-C2.2.7, pp.1-9, Mostra d'Oltremare, Naples, Italy, October 1-5, 2012.


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