阿部研究室では観測ロケット※や科学衛星に測定器を搭載して得られる観測データを用いて、超高層大気領域(熱圏や電離圏)の大気やプラズマの関する研究を行っています。 中性大気が支配的な高層大気よりも更に高い高度に位置する超高層大気領域では、大気粒子の一部が太陽光によって電離大気(プラズマ)となるため、2種類の大気が存在することになります。電離大気粒子は電荷をもっているため電場と磁場の影響を受けて運動方向が変わりますが、中性粒子はそのような力を受けない。そんな2種類の粒子が衝突しながら空間を運動している、超高層大気空間とはそんな不思議な空間です。 夜空を彩るオーロラ、目に見えるほど明るくはないですが大気光と呼ばれる発光は、このように中性大気とプラズマが共存している空間だからこそ発生する現象です。この空間には、このような特殊性に起因して様々な不思議な現象が存在しています。我々は、このような不思議な現象に魅せられて、研究を行っています。
観測ロケットは衛星打上げ用のロケットとは異なり、先端部に搭載した測定器により飛翔中にのみ観測を行うロケット。地表からの高度200km以下の空間では大気抵抗が大きく衛星は長時間飛行できないため、観測ロケットが唯一のその場観測の手段となる。近年では超高層大気観測、微小重力実験、宇宙工学技術の実証実験などに用いられている。
宇宙航空研究開発機構は現在、S-310型、S-520型、SS-520型という3種類の観測ロケットを運用している。
英語ではsounding rocketが一般的な表現。
青空のかなたには何があるでしょうか。
宇宙と答える方が多いかもしれませんが、雲が浮かぶ高度約10 kmまでの対流圏の外側には成層圏、中間圏、熱圏と様々な領域が広がっています(左図をご参照下さい)。高度約80
km以上の空間は大気の一部が電離していることから電離圏と呼ばれています。電離圏は我々が生活する地上とも宇宙空間とも異なる極めて特異な領域です。ここでは「超高層大気領域」という一般的な名称を用いることにしましょう。ここでは、この領域の特徴と現在行なわれている研究をわかりやすく紹介したいと思います。
超高層大気領域の特徴で最も顕著なものは組成です。下層大気は中性大気のみ、宇宙空間では(大気が電離した)プラズマが99%以上を占めますが、超高層領域には中性大気とプラズマが共存します。プラズマは電場や磁場の影響を受けながら運動しますが、大気はそうではありません。しかも両者間には衝突があるので、電磁場の影響を受けて運動するプラズマ粒子は大気粒子と衝突を繰り返しながら動いていくことになります。こんな領域は他にはありません。
超高層大気領域は我々が生活する比較的空間に近く、その他の宇宙空間に比べて観測の歴史は長いのですが、未解明の問題が数多く残っています。その主な理由は大気とプラズマが共存することと観測手段が限定されていることにあります。高度250
km以上の空間は人工衛星を用いると長期間の観測が可能になりますが、80〜200 kmの高度領域は人工衛星には低すぎるし、気球は到達できない高度なので長期間の連続観測が困難なのです。地上から観測する手段もあり連続観測にはとても有効ですが、局所的現象の議論には限界があります。このように超高層大気は直接的な観測時間で考えると最もデータ量の少ない領域です。
この空間について「その場」での観測を可能にする手段が観測ロケットです。このロケットの先端部(頭胴部と呼ばれる)には測定用の機器が搭載され、ロケットが超高層大気領域を飛翔している間に観測を行ないます。科学衛星では測定器がロケットから切り離され周回軌道に入った後に観測が開始されますが、観測ロケットではロケットが飛翔している間が勝負です。宇宙科学研究所はK(カッパ)型、S(エス)型などの観測ロケットを用いて様々な超高層大気領域の観測を行なってきました。我々はこの観測ロケットを主な超高層大気の研究手段として用いています。
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宇宙科学研究所 太陽系科学研究系
阿部 琢美
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