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数値シミュレーション技術

数値シミュレーション技術

革新設計・ミッション創出に向けた数値シミュレーション技術の研究

研究概要

 情報・計算工学の高度な利用は、宇宙開発力の強化に必須です。特にJAXAの強みである数値シミュレーション技術により、これまでもプロジェクト等における設計の確実化・高効率化を進めてきていますが、更にプロジェクトの早い段階でのシステム成立性の見極め等に対しても、数値シミュレーション技術を活用する事が重要と考えています。大きな価値が見いだせる研究テーマを6つ設定し、研究開発を進めています。なお、数値計算の実行に当たっては宇宙航空研究開発機構スーパーコンピュータ『JSS2』を用いています。

研究の目標

 以下に示す 6つの研究について、ミッションの上流設計において活用できる研究テーマ(mission driver)と、設計ツールを構築する研究テーマ(design driver)と大別し、研究を進めています。

◆Mission driverを目指す研究:
液体推進システム評価技術、システム安全・運用評価技術
◆Design driverを目指す研究:
ターボポンプ解析技術、燃焼解析技術、音響解析技術、構造・機構解析技術

数値シミュレーションの目指す世界
数値シミュレーションの目指す世界

1)液体推進システム評価技術

ロケット上段液体推進システムの熱 - 流体解析
ロケット上段液体推進システムの熱 - 流体解析

 基幹ロケット(H3ロケット)の国際競争力を強化する為には、打上能力向上および費用削減を進めるだけでなく、軌道投入バリエーション拡大などミッションの多様性要求にも応えていく必要があります。これらの要求に応える為には液体ロケットの運用という視点で推進薬消費やエンジン動特性を把握する必要があり、本事業は、推進薬タンクと液体ロケットエンジンを含めた視点、液体推進システム規模で評価する技術の開発を行っています。高精度 3D-CFD を活用して液体推進システム内部流れ(推進薬タンク内の液体挙動、配管内の沸騰、燃焼室内の反応)を把握し、システム応答評価ツール用のモデリング開発を行い、シミュレーションを活用したフロントヘビー型液体ロケット設計など新規ミッション実現に向けた活動の基盤創出を目指しています。
 研究を進める上で国内外の大学、研究所、企業等と広く共研等を結び、実験データ取得や解析コードの検証等に役立てています(東大、東農大、室蘭工大、京大、名城大、NASA等)。

開発ツール

多相熱流体解析コードTCUP(東大 TLO・JAXA のソフトウェア知財としてご利用可能になる予定です)

2)システム安全・運用評価技術

 ロケットや宇宙機の安全要求厳格化への対応、性能などの国際競争力確保を目指し、多分野複合連成シミュレーション技術を構築しています。 本研究には以下の3つの研究課題があります。

(A)ミッション終了後のロケット上段や宇宙機の溶融残存物によるリスクを評価する新しいリエントリ安全評価法 LS-DARCの構築
(B)ロケット打上げにおける飛行安全制約を緩和するための爆破添加速度などの評価法の見直し
(C)非協力物体捕獲・ドッキング、微小重力天体への着陸、再使用型ロケットなどのシステム概念設計やロバスト最適化のために必要な高忠実物理モデルの構築

 ロケットや宇宙機の溶融破壊リエントリ、指令破壊時の液体ロケットタンクの破壊挙動など未獲得の物理モデル構築と数値シミュレーションコード開発、接触反力 / 空力擾乱などのダイナミックなシステム挙動評価において必要な物理モデル構築を進めています。  オフノミナル条件下での複雑な複合物理現象の数値シミュレーション技術を実現させ、数多くの不確定性因子ばらつきを考慮した確率論的評価の実用化を目指しています。
 研究を進める上で国内外の大学、研究所、企業等と広く共研等を結び、実験データ取得や解析コードの検証等に役立てています(東大、熊本大等)。

開発ツール

リエントリ安全評価ツールLS-DARC(JAXA内製ソフトウェア)

システム安全・運用に係る評価技術
システム安全・運用に係る評価技術

3)ターボポンプ解析技術

ロケットターボポンプ圧縮性流体解析
ロケットターボポンプ圧縮性流体解析

 ターボポンプは液体ロケットエンジン開発においてコストや期間、リスクの観点で依然としてボトルネックなコンポーネントです。また、ターボポンプはそれ自体がポンプ、タービン、軸受、軸推力バランス機構、シール機構等のサブコンポーネントで構成される複雑なシステムであり、ターボポンプシステム全体を評価できる解析技術は世界的にも存在していません。また、サブコンポーネントレベルの数値シミュレーション技術自体も、予測精度が低いため試験による設計妥当性評価が必須となっています。
 本研究では、ターボポンプに係る数値シミュレーション技術の予測精度を高めつつ、ターボポンプシステム全体の評価を可能とする解析技術を目指しています。その解析技術の活用により、試験削減・代替を可能として今後のロケットエンジン開発をより低コスト、短期間で実現します。また、ロケットエンジンのポンプやタービンは、一般産業界のものより小型で高速回転など極限環境で使わられるために効率が低いことが知られています。近年ではAdditive manufacturing技術の進展により、従来では不可能であった形状の製品開発も可能となってきており、本研究で構築するターボポンプ解析技術を活用することで、革新的な高効率ターボポンプの設計実現を目指します。
 本研究を進める上では、国内外の大学、研究所、企業等と広く共研等を結び、実験データ取得や解析コードの検証&改良等に役立てています(DLR、早稲田大等)。

開発ツール

流体解析ソフトウェア CRUNCH CFD(JAXA外製ソフトウェア)

発表論文等

(1) 根岸ほか, 圧縮性URANS解析による液体ロケットオープンインペラの流動特性評価, ターボ機械, 第46巻12号, 2018年.

4)燃焼解析技術

 燃焼器はロケットエンジン開発においてリスク・コスト・期間の観点で依然としてボトルネックですが、評価技術の精度が低く、未だ多数試験に依存しています。現行のエンジンやスラスタ等の振動燃焼も、抑制装置(レゾネータ)を併用するなど、根本的な理解と評価ができていない状況です。将来輸送系においても、同様の高いリスクを内包しており、解析ベースの評価法の確立が急務です。そこで、これまでに蓄積した物理数学モデル、大規模・高速解析技術を統合・発展させることで、実機燃焼器設計に関わるリスク評価実現と設計ツール化(噴射器設計、燃焼効率、熱流束、燃焼振動評価)を目指し研究を進めています。
 研究を進める上で国内外の大学、研究所、企業等と広く共研等を結び、実験データ取得や解析コードの検証等に役立てています(東大、京大、東北大、慶応大、ミュンヘン工科大、DLR、ASI、AFRL、IHIエアロスペース、みずほ情報総研等)。

開発ツール

熱流体ソフトウェア LS-FLOW(JAXA内製ソフトウェアとしてご利用可能です)

発表論文等

(1) “On a robust and accurate localized artificial diffusivity scheme for the high-order flux-reconstruction method,” Takanori Haga and Soshi Kawai, Journal of Computational Physics 376 (2019) 534-563.
(2) “ERENA: A fast and robust Jacobian-free integration method for ordinary differential equations of chemical kinetics,” Youhi Morii, Hiroshi Terashima, Mitsuo Koshi, Taro Shimizu, Eiji Shima, Journal of Computational Physics 322 (2016) 547-558.
(3) "Large-Eddy Simulation of High-Frequency Combustion Instability in a Single-Element Atmospheric Combustor,’ Shingo Matsuyama, Dan Hori, Taro Shimizu, Shigeru Tachibana, Seiji Yoshida, and Yasuhiro Mizobuchi. Journal of Propulsion and Power, Vol. 32, No. 3 (2016), pp. 628-645.
(4) "Numerical Study on Intense Tangential Oscillation in a Simulated Liquid Rocket Chamber,” Taro Shimizu, Yuhi Morii, and Dan Hori. AIAA Journal, Vol. 52, No. 8 (2014), pp. 1795-1800.

マルチエレメントサブスケール燃焼器の圧縮性LES解析
マルチエレメントサブスケール燃焼器の圧縮性LES解析

5)音響解析技術

 ロケットリフトオフ時、遷音速飛行時に発生する音響振動は、ロケットや射点設備設計、及び搭載衛星の設計に影響を与えます。そのため音響レベルの予測と低減化が必須です。また、国際競争力強化のためにも、静粛な音響振動環境の実現が求められています。  これまで、実機で問題となる重要周波数帯において十分な予測精度を持つ、リフトオフ時、遷音速飛行時の空力音響シミュレーションを構築してきました。そして、JAXA が保有するスーパーコンピュータ (JSS2) を利用し、様々なロケットやその射点の開発に貢献してきました。次に、本研究では、ロケットフェアリング内に透過する振動騒音を定量的に予測することを目指し、第一原理計算に基づいた空力 / 振動騒音連成解析技術を研究開発しています。

エンジン排気ジェットの流れ場 機体に伝播する音響波
エンジン排気ジェットの流れ場 機体に伝播する音響波
H3ロケット打上げ時の音響解析
(可視化に際しては、スーパーコンピュータ活用課/可視化チーム協力)

開発ツール

圧縮性流体解析ソフト UPACS(JAXA内製ソフトウェアとして利用可能です)

6)構造・機構解析技術

 再使用を可能とするロケット等の実現に向けては、エンジンの繰り返し使用による構造体の損傷と、余寿命の定量評価および長寿命化が求められます。また今後の再使用ロケットや惑星探査機等の宇宙機設計では、 宇宙機と他の物体 (惑星の地表面や他の宇宙機等) との相対運動や接触・衝突の評価も重要となります。
 本研究では、 宇宙機の構造・機構系、 更には姿勢等の制御系も考慮した設計妥当性評価や運用、ハザード評価を可能とする機構 - 制御 - 構造解析技術の構築を目指しています。 これにより再使用ロケットや惑星探査機等、 地上では試験困難なミッションの実現可能性をコンピュータ上で評価し、 設計にフィードバックをかけることで確実な成功に貢献します。

開発ツール

・分散メモリ型並列構造解析システム ADVENTURECluster(JAXA外製ソフトウェア)
・複合物理領域解析ソフトウェアSimulationX(JAXA外製ソフトウェア)、機構解析ソフトウェアAdams(JAXA外製ソフトウェア)、及び制御解析ソフトウェアMATLAB/Simulink(JAXA外製ソフトウェア)を統合したドッキング機構制御システム統合解析ツール(JAXAドッキング機構開発支援ツール)

発表論文等

(1) 西元ほか, 極限マルチフィジックス環境における液体ロケットエンジン燃焼室の破損メカニズム解明と寿命評価, 日本機械学会論文集, Vol.81, No.826, 2015.
(2) 西元ほか, 極限マルチフィジックス環境における液体ロケットエンジン燃焼室の破損メカニズムの解明(燃焼室スロートの残留変形), 日本機械学会論文集(A編), Vol.78, No.795, 2012, pp.1534-1546.
(3) K. Kawatsu, Model-Based Development for Affordable and Reliable Space Craft and Launch Vehicle by Utilizing Multi-Physics System-Level Modeling and Simulation Tool-Chain, ESI SimulationX Conference, 2018.
(4) 河津, 複合物理領域モデリング&シミュレーションによる宇宙システム設計・評価技術, 第62回宇宙科学技術連合講演会, 2018.

ロケットエンジン燃焼室熱 - 流体 - 構造連成解析
ロケットエンジン燃焼室熱 - 流体 - 構造連成解析
宇宙機ドッキング機構 - 制御システム連成解析
宇宙機ドッキング機構 - 制御システム連成解析

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