(過去の取り組み)希薄流解析技術
宇宙輸送機、有人宇宙船、観測衛星、探査機等の多種多様な宇宙機に共通して、宇宙機から宇宙空間へ排気される希薄気体が高温化、姿勢擾乱、コンタミネーションを生じるリスクがあります。
本研究では高真空・低圧環境下の希薄流によるリスクを評価する解析技術を開発しました。例えば、「HTV、こうのとり」のメインエンジンから排気される高温ガスプルームが国際宇宙ステーションに衝突して生じる加熱・圧力負荷の評価に活用されました。また、月着陸実証機が月面に着陸する際のガスプルームによる加熱の評価にも使用されています。JAXAにて新規開発される宇宙機に化学スラスタが搭載される場合は本解析手法によるガスプルームの評価を行うことがスタンダードになりつつあります。ガスプルーム以外にも大気圏再突入時の高高度空力・熱環境予測にも活用されます。例えば、ロケット上段機体は打上げ後に大気圏再突入し安全に燃え尽きる必要があります。本解析技術は高高度(高度120km 〜 80km程度)において機体に加わる空力加熱の評価に使用しました。ロケットのようにサイズの大きい機体の空力加熱評価も地上の風洞試験では再現困難のため、数値解析によるアプローチが有効です。
本解析技術のコアとなるDSMC (Direct Simulation Monte Carlo) 解析コードはUNITEDというソフトウェアとして整備し、宇宙機形状の再現性を高めるためCADデータの読み込み機能を強化しました。また、DSMC解析は粒子ベース計算となるため、並列化効率がボトルネックとなりますが、JAXAスーパーコンピュータ上でロードバランスを考慮した大規模並列を可能としています。計算格子は解適合格子を活用しているので、ユーザーによる計算格子生成の時間も短縮され、ターンアラウンドが短い解析作業が可能となっています。
開発ツール
希薄流解析ソフト UNITED(JAXAソフトウェアとしてライセンス利用可能となる予定です)
発表論文等
(1) T. Okumura, D. Tsujita, H. Tani, Y. Daimon, K. Yuki, T. Nagata, T. Kasai, Y. Ohkawa, H. Okamoto, “Observation of Electron Density Depletion due to Maneuver Operation of H-II Transfer Vehicle,” Journal of Geophysical Research, Space Physics. (Under review)
(2) Y. Nakamura, H. Tani, T. Yamamoto, N. Murakami, S. Mitani, K. Yamanaka, “Contactless Space Debris Detumbling: A Database Approach Based on Computional Fluid Dynamics,” Journal of Guidance, Control, and Dynamics, Vol. 41, No. 9, pp. 1906-1918, 2018.
(3) 谷洋海, 王丸哲文, 高田真一, 植松洋彦, 松浦真弓, 大門優, 根岸秀世, “ISSへ干渉するHTVメインエンジンプルームのN-S/DSMC連成解析,” シミュレーション, Vol. 34 (3), pp. 186-192, 2015.
