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人工知能利用基盤技術

ソフトウェアエンジニアリング

不確定性の高いシステムの自律性向上を実現する基盤技術の研究

研究概要

近年では、惑星探査や、輸送手段の再使用や、ユーザへの情報のリアルタイム送信化(例:安全保障、災害)といった自律性システムが求められています。本研究では、自律性システムの実現に向けて、我々が今まで実施してきた既存研究成果を活用し、近年研究が盛んな人工知能関連技術に着目した研究開発を進めています。その際に、宇宙システムならではの特性「データ量が少なく、ルール化の困難な不確定性の高い一方で、信頼性・安全性が求められているシステム」を考慮にいれた5つの研究テーマを設定して実施しています。

研究の目標

データによる環境モデル構築技術 従来以上に大気密度を高精度に予測する
故障予測・診断技術 壊れている/壊れそうなもの(コンポーネント、センサ)を見つけ出す
ターゲット画像認識・識別技術 人間の精度を超えて画像から目標物を識別する
自律システムの信頼性・安全性技術 不確定性が高く、予測不可能な人工知能システムの信頼性・安全性を確保する
ロバストな最適システム設計技術 ※「システムレベル設計・検証技術」研究テーマで実施

1)データによる環境モデル構築技術の研究

 超高層空間(高度 90km 〜 800km と定義)の利用拡大のため、軌道予測を対象とした“天気予報”実現に向けた研究を行っています。
 LEO軌道予測で最大の不確かさとされる“大気密度”予測の高精度化を目指しています。

 LEO軌道予測精度の向上には、わずかな大気から受ける抵抗(大気抵抗加速度)を高精度に予測することが極めて重要です。そこで、本研究チームでは2つのアプローチ(データ駆動、モデル/データ融合)を用い高精度化に取組んでいます。

① データ駆動(低頻度・局所的な大気密度予測・推定)

 これまで蓄積されてきた宇宙環境情報と宇宙飛翔体の軌道情報を用い、機械学習技術を導入し大気抵抗加速度の予測モデルを創り出すことにより、不確かさを有する大気密度モデルを用いず宇宙機飛翔体の軌道推移を高精度化する技術開発を目指しています。現在、多くの宇宙飛翔体は、地上からの観測により、ある一定の間隔で軌道決定が実施されています。これら軌道決定情報には、超高層の大気密度変動にとって重要な宇宙環境情報が大きな影響を及ぼすことが分かっています。
 本研究では、これまで蓄積されてきた宇宙飛翔体の軌道情報を目的変数とし、説明変数として、超高層大気に影響を与える可能性が高い宇宙環境情報とする、新たなデータ駆動型の宇宙飛翔体の軌道予測・推定モデルの構築を目指しています。

② モデル / データ融合(高頻度・大域的な大気密度予測・推定)

 高頻度計測が可能になる超高層天気の情報(例えば、SLATS等の超低高度衛星やSSA計測情報から導かれる大気密度情報等)を活用し、地上天気予報で活用されているデータ同化技術(再解析) を超高層大気へ応用することにより、精度の高い高頻度・大域的な大気密度予測・推定を実現し、宇宙機(デブリ)の軌道予測の高頻度化(1日毎を数時間毎に)、および、宇宙機(デブリ)軌道予測実測誤差の低減を目指しています。

※ 気象予測モデルの予測の不確かさを疎な観測情報から推定する技術

2)故障予測・診断技術の研究

 インテリジェントに宇宙機システムの故障診断実現に向けた研究を行っています。
 本研究チームでは、従来手法(センサ出力にもとづく閾値判定)だけでは対応が難しい故障の判定を実現するために、モデルベース技術・データ駆動技術を用いた故障診断技術を取組んでいます。特に、故障診断の“実適用”に向けた課題として以下を検討しています。
・故障診断技術として必要となるデータの整理、データ取得に向けたセンサ配置等の検討
・技術適用に必要な充足条件(診断モデルの妥当性検証、診断結果の信頼性)の検討

① 再使用ロケット健全性確認のための新たなヘルスマネジメント技術

 再使用ロケットの健全性確認のための整備期間・コスト低減経済的に保証するためには、サブシステム・コンポーネントをできるだけ機体から取り下ろさずに状態の良否判定を目指しています。

② オンボード故障診断技術

 宇宙機の自律性向上実現に向けて、故障箇所を判定し再構成を目指しています。例えば、誘導姿勢制御系、推進系が複雑に絡み合っている状況下で、飛行データから故障している機器(例:スラスタ)の判定。

3)ターゲット画像認識・識別技術の研究

 今まで人間が対象物を識別しているケース、もしくはコンピュータで実施しているが、識別率が悪く時間がかかってしまっているケースを、本研究では、ディープラーニング技術を活用することで、短時間での人の識別精度以上の識別を可能とするシステムを目指しています。また、宇宙機システムの自律性を向上させるためには、軌道上識別が求められています。そこで、搭載コンピュータで識別を可能とするために、ディープラーニングを用いた識別アルゴリズムのFPGAへの搭載化も目指しています。

レーダ画像(SAR画像)からの船舶識別
レーダ画像(SAR画像)からの船舶識別
月面画像からクレータの識別
月面画像からクレータの識別

4)自律システムの信頼性・安全性技術の研究

 ディープラーニング(DL)のようなニューラルネットワーク技術は、ネットワーク自体が、学習データから特徴を学習し、確率で判断しており、非決定論的な不確実性を持っています。そのため、予測不可能なシステムといえ、そのことが原因で利用者の満足を得られない場合や、事故を引き起こす可能性があります。そこで本研究では、信頼性・安全性が求められるシステムにおいて、ディープラーニングのような不確実性を持った人工知能を利用可能とする信頼性・安全性の考え方の研究を行っています。

自信をもって判断を誤るデータの識別 安全性を実現するAIアーキテクチャ
自信をもって判断を誤るデータの識別 安全性を実現するAIアーキテクチャ

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