第3衛星フェアリング組立棟(SFA3)の空調最適化

公開日:2025/02/25 最終更新日:2025/02/25

JAXAが抱える課題

ロケット・衛星の整備に必要な高天井大空間クリーンルーム(以下、大型CR)の温湿度及び清浄度の確保については、計画・設計・施工・運用段階でそれぞれに必要な検討、実運用においては様々な調整作業が実施されています。大型CRは熱環境および清浄度を最優先とするため、非常に多くの空調エネルギーが消費されているのが現状であり、長年の課題となっております。

そこで今回、SFA3では、各フェーズ(企画・設計・施工・整備後の運用)の各段階において、これまではそれぞれの段階でばらばらに空調システム検討をしていたところを、インテグレータとして一気通貫で検討・整備・実証を行いました。結果、風量50%でも温湿度・清浄度の達成が見込める最適な空調システムが導入できました。実運用前に採用可能な省エネモードの有効性に関する実施検証を行うことができた初の事例となり、更なる運用改善にチューニングできる機能を搭載し、最適運用に向けたコミッショニングを行っていきます。

温湿度及び清浄度を確保しつつ、省エネルギーを高めるため、吹き出し口位置・風向等を変更した予備CFD(Computational Fluid Dynamics, 気流シミュレーション)を実施し、空調対象エリアの最適化を行いましたので、ここに紹介します。

大型CRについての概要と空調システムの考え方

SFA3外観

フェアリング組立の様子

フェアリング組立室

SFA3は打上される衛星の試験や推進薬充填を行い、フェアリング※1を衛星に結合するための役割を担う建物です。フェアリング組立室はフェアリングを天井クレーンにて衛星の上部からつり下ろしながら設置するため、衛星及びフェアリング高さの合計値以上が最低限必要となり、約40mの高天井の大空間となっています。

また衛星搭載機器の性能を保証するため、清浄度はクラス10万(Fed.Std.209D:米国連邦規格)以下としなければならないことから、温湿度だけでなく清浄度確保の観点から空調の循環回数もある程度必要な空調システムとしなければなりません。

※1 参考:フェアリングのひみつ(JAXA 宇宙輸送技術部門)

計画段階のCFDについて

計画段階において、空調システムを検討するにあたり、対象空間(衛星高さ20m程度)に対して、吹出口・吸込口の位置の組み合わせによる温度分布を確認するための簡易CFDを実施しました。結果を以下に示します。

天井分布吹出、壁面1箇所吸込
天井中央吹出、壁面4箇所吸込
壁面1方向吹出、壁面1箇所吸込

温度分布としては、吸込口が4箇所あるケースが最も室中央部分の温度が均一になりやすく、吹出口が壁面設置され、1方向吹出のケースが上下温度分布の発生が確認できるものの、対象エリアに対して最小化したエリアで効率的に空調が実施できる目途が得られました。

その結果をもとに決定した空調方式の概要を下図に示します。

空調方式の概要

空調風量が大きく、HEPAフィルター等の圧損も大きいことから機械室を空調対象部屋(フェアリング組立室)に隣接させました。

また空調ルートとしては4箇所の吸い込み口から地下ピットを通してAHUを介して壁面から吹き出すことで20m以下の温度分布の均一化が図れると想定し、設計を確定しました。その際、風速分布については、直接衛星整備の作業員に直接当たらないような配慮を行い、清浄度については、過去の同類の建屋と循環回数を同等として設定することで、衛星整備環境の維持が可能と判断し、設計CFD検討に移行しました。

設計時のCFDについて

1. 夏期冷房時(当初案)

冷房時(当初案)の計算結果を示します。

ヒアリングの結果、衛星環境が満足するエリアを20m以下に限定できましたが、設計当初は20m以上の位置に吹出口を設置していました。上下方向の温度分布は、目標温度21℃のラインが20m程度となり、20m以下は 20~23℃でほぼ均一となっていますが、気流が目的物に到達できていないため、効率的な空調が出来ていないと判断できます。

CFD結果(冷房・原案)

2. 夏期冷房時(変更案)

そこで、当初案の吹出口を20m以下に配置し、運用時に吹出口の風向変更が可能(フレキシブルな運用が可能)となる位置まで下げ、シミュレーションを実施しました。

上下方向の温度分布は、目標温度21℃のラインが21m程度となり、20m以下は20~22℃でほぼ均一となり、空間全体を循環するような気流の流れとなりバランスの取れた環境となることがわかりました。

CFD結果(冷房・変更案)

3. 冬期暖房時

同じ吹出口の位置で暖房時の計算結果を示します。

上下方向の温度分布は天井近傍までほぼ均一となり、吹出口方向は冷房に比べ上昇傾向にありますが、20m以下の気流分布はほぼ均一となりました。必要に応じて運用時に吹出口を変更し対応可能であることから、この位置での吹出口の位置を確定しました。

CFD結果(暖房時)

施工時の性能検証

施工時においても大型CRの上限分布を計測し、CFD妥当性を確認しました。概ね気流、温度の分布は現地の測定結果と整合していることから、通常風量及び省エネ風量についても安定した温湿度(制御許容値±1℃)や清浄度(クラス10万)を満たすことができると判断しています。実際に多数機打ち上げとなった場合は、風量年間約700万円の削減が達成でき、他の衛星系建屋と比べ1/3の電力量となる見込みです。

今後の運用も含め、他の建屋においても最適化チューニングを行い、環境改善、エネルギー見直し等を随時実施していきます。

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