第3衛星フェアリング組立棟
Speedy & Safety, Flexible & Energy minimum
高度化する打ち上げに対応し、複数の人工衛星・探査機を同時に組立て整備できるようにするため、現在の衛星フェアリング組立棟(SFA)、第2衛星フェアリング組立棟(SFA2)に次ぐ、新たな衛星組立棟である第3衛星フェアリング組立棟(SFA3)を整備することとなりました。
建設地を射点から3km以上離れた位置に設定することにより、打ち上げ時においても退避等の制限がかからず、人工衛星・探査機の組立て等作業が可能となることから、年間の打上回数の増加、ひいては国際競争力の向上に貢献することが可能となります。
JAXAとしては過去最大級規模の計画を立案・実行し、無事2023年4月に完成しました。
今回整備を計画したSFA3及びその他ロケット・衛星系エリア内で行われる各種作業や、当該作業に従事する作業者の車両通行用として新たな取付道路の整備を実施しました(下図、B・C区間)。
射場への輸送道路については、以前は通学路や住宅密集地を通っていましたが、子供たちや沿線住民の安全確保の観点から本道路(A区間)を利用することとし、地域の安全性確保にも貢献する取り組みとなりました。
過去の整備計画を元に5か年計画で全体スケジュールを立案し、JAXA内の各部署の協力、工事業者の調達力・工事管理能力により、離島の大規模工事を無事計画通りに実行することができました。
また、コロナ禍の状況においても、島外から様々な職人を呼び込む必要があったため、入島前の種子島内の抗原検査の徹底、作業時のコロナ対策(現場事務所の詰所の区画化・換気量の確保)の徹底を実施したことで、地域への影響を最小限に抑え、確実な施工が実施できました。
従来、JAXAの衛星系建屋は衛星推進薬の貯蔵所と分離することを基本としていましたが、衛星整備ユーザーとの対話を重ね、天候不順が発生しやすい種子島においては、衛星推進薬の貯蔵所をSFA3建屋と一体化することで、天候に左右されず整備作業が可能となるメリットは非常に大きいことが確認されました。
更に推進薬の棟間移動に係る日数が削減され、射場作業日数の削減に寄与することから、新たな機能付加として計画に反映しました。
従来、様々な動線が衛星系建屋では混在し、セキュリティの観点から管理が煩雑になっていたことから、本計画ではロケット系と衛星系の作業エリアを明確に分離したプランを構成しました。また衛星ユーザーエリアを分離することで、海外顧客等の衛星側がセキュリティ上施錠管理を要求した際もスムーズに対応が可能となるように配慮しました。
衛星ユーザー動線とメンテナンス動線を分離することで、不具合が発生時に衛星整備作業を中断することなく処置が可能となるように配慮しました。
衛星系建屋は30m以上の大空間となることから、従来はS造による構造形式が多く採用され、その結果、建物の上部の変位が大きくなることから、漏水リスクが常に高い状態でありました。今回屋根を折板屋根からRC屋根に変更し、その分の構造剛性を確保するため、低層部をSRC造、高層部をS造のハイブリッド構造を採用し、漏水リスクを大幅に低減することに成功しました。また本構造により地震・暴風時の変形量を抑えるとともに室圧・清浄度の確保が改善され、衛星整備環境の向上に寄与しました。
従来、既存衛星系建屋は建物全体を空調していましたが、作業エリア(16m以下)を集中的に空調することで、機能と省エネルギー性を両立するタスクアンビエント空調システムを構築することに成功しました。完成後の性能検証でも温湿度及び清浄度に問題が無いことを確認しつつ、インバーターの周波数を可変させた省エネモードでの運用も可能な見込みとなっています。
既存施設は0.5m/min(有線式)の天井クレーンを搭載していますが、衛星を台座に設置する作業の際には更に慎重な作業となることから、油圧機械(ハイドラセット)を使用していました。この作業に時間を要することから、天井クレーンでそのまま衛星設置ができるクレーンを国内外含めて調査し、結果として0.03m/minの超低速モードを備えたクレーン(無線式)を採用することができました。作業性の向上の他、衛星への油滴落下/操作ケーブルの接触リスクを最小限とすることが可能となります。
衛星フェアリングは20m以上となることから、従来より衛星系建屋の間口はスライド式の扉を採用していました。しかし、漏水や鳥侵入の恐れがあることから、大型開口に対して、海外射場での実績もある大型シートシャッターを採用しました。これにより気密性や水密性、動作速度等の改善が見込まれ、大型装置等の搬出入に関わる作業の効率化に寄与します。
今回採用したものは、国内建具メーカーと共同開発を実施したものであり、迅速な保守体制も構築していることから運用も含めて信頼性の高いものとなります。
SFA3の工事調達においては設計段階から施工予定者の技術力を設計に反映できるECI方式を採用しました。
ECI方式とは、⼀般的な公共⼯事発注⽅式である設計・施⼯分離発注と異なり、公募型の技術提案・交渉⽅式であり、価格のみならず技術⼒も考慮した総合評価点にて業者を選定する仕組みです。JAXAでは初の導⼊でありましたが、空調気流シミュレーションの提案(CFD)や施工品質の向上のための躯体工法の提案等、様々な提案を受けることができ、有効な調達手段であったと考えています。
また、一括契約(建築・電気・機械)により技術・品質管理の最適化、工期の短縮を実現したことから、想定よりも早期に衛星ユーザーに運用確認ができたため、H3ロケットの打ち上げ(2024年2月)でも問題なく利用できています。
さらに、省エネルギーも従来から50%(空調風量の削減等)程度削減できる見込みが得られていることから、次世代の省エネ衛星系建屋のモデルとなると期待されています。今後も衛星市場の動向に注力し様々な衛星運用に対応できるフレキシブルかつ安心・安全の建物計画を実施していきます。
検査記録の自動管理による効率化、迅速な是正指示が可能になり品質確保を実現しました。
建設地における突風、台風、落雷、豪雨等のピンポイント気象予測を行い、作業中止判断や現場養生措置を速やかに判断可能、事故の未然防止に繋げる取り込みを行いました。
ネットワークカメラ、また作業員へのウェアラベルカメラを装着し、遠隔地からの的確な管理を可能とし、ウェブ会議を全面的に使用した工事管理・監理者との定例会議においてもスムーズな意思決定に寄与しました。