簡便な凍結深度等推定手法の確立を目指して
寒冷地の地面凍結
寒冷地では土中の水分が凍結することで体積が膨張し、地盤を持ち上げます。物質の状態変化に伴う体積膨張の力は非常に大きく、ときには建物や施設を持ち上げることで、建物が傾いたり破壊されたりしてしまうこともあります。
その対策のひとつに、地面が凍結する深さ(≒凍結深度)まで掘り起こし、凍結しない材料に置き換えてしまう工法があります。そのため、凍結深度を高精度で推定することができれば、効率よく対策を行うことができます。凍結深度の計測には実際に掘り起こして調べることが一番ですが、その場所までの除雪が必要となる上、敷地全体を掘り起こすには多大な費用がかかります。
比較的小規模かつ非破壊で測定する基礎技術を習得し、JAXAの寒冷地事業所や観測所等における寒冷地設計のガイドラインを作成するため、施設部では電磁波レーダを利用した地中探査による凍結深度の計測を行いました。
※対策をしなかった場合のイメージ図
美笹深宇宙探査用地上局での地中探査計測
電磁波レーダを利用した地中探査は、地中内の空洞や地中埋設物の探査に利用されることが一般的です。そのため、近くに空洞や埋設物があると、その影響が探査結果に現れてしまい、計測目標の凍結深度がどこにあるのか、わかりづらくなってしまいます。古い事業所の場合、長い歴史の中で今は使っていない配管等が残置されていることがあり、予期せぬ埋設物の影響が探査結果に現れてしまいます。
その点、2016年頃に敷地が造成された美笹地区は、地下埋設物の把握がしやすく、さらに直近の土質状況データがそろっていることから、凍結深度探査の実施に適している事業所であるため、今回の計測場所として選定しました。
計測は2020年2月に以下の2種類を行い、いずれも送信アンテナと受信アンテナをけん引する作業車を利用しました。
- プロファイル測定 … アンテナ間の距離を一定に保ちながら計測
- ワイドアングル測定 … アンテナ間の距離を徐々に離しながら計測
写真はプロファイル測定の実施風景です。送信アンテナから地中に電磁波を放射し、電気特性の異なる境界で反射した電磁波を受信アンテナで記録します。これにより、地中の地層境界や凍結境界、埋設物等の可視化を行います。
宇宙展開への将来性
将来人類が宇宙での活動の幅を広げるために、衛星・惑星における拠点製作は重要なミッションです。特に月は地球との距離が約380,000kmと比較的近くに位置しており、ISSに続く宇宙拠点の次の一歩として、月面基地が建設される日もそう遠くはありません。
施設を建設するとき、沈下したり傾いたりしないように、地面の下の状況を把握する必要があります。地球の場合は、重機を使用したボーリング調査を行うことで地下情報を把握することができます。しかし、月の場合は、宇宙環境に耐える限られた機材、限られた電力しか利用できないため、地球上で行うようなボーリング調査は困難を極めます。
電磁波レーダによる地中探査は、ボーリング調査と異なり大きな力を必要としないことから、宇宙環境下での計測に適した調査方法であると同時に、月面基地建設地の検討の一助となる可能性を秘めた技術であるといえます。