宇宙航空に関する地上施設のスマート保全実現に向けて

公開日:2024/05/28 最終更新日:2024/05/28

JAXAが抱える課題

調布航空宇宙センター分室発電機
調布航空宇宙センター飛行場分室発電機

施設部で管理するインフラ設備の中でも、各事業所の需要設備(受電設備、変電設備、送電設備等)について、近年ケーブル地絡事故や配電盤絶縁不良が発生する等、特に老朽化が顕在化しています。まずは調布航空宇宙センターにおいて、レジリエンス向上を目指した需要設備老朽化更新を2022年度から着手しました。

運用面においては、電力監視データの見える化を実施し、低圧負荷の一部範囲における絶縁状態監視傾向分析、警報発報等といった運転管理のデジタル化を進めています。一方、保全管理における巡視・点検(日常・定期)作業においては、紙ベースでの管理が主流であり、その豊富なデータを生かし切れていないのが実情です。

2021年4月30日に公表された経済産業省「電気保安分野のスマート保安アクションプラン」※1において、2025年度はスマート保安率増加を示すターゲットイヤーと設定されています。「スマート保安」とは、電気保安の分野において安全性を前提とした電力の安定供給を将来にわたり実現するべく、IoT、AI やドローンに代表されるような新しい技術の活用による電気保安水準の維持向上及び生産性向上等を両立させる取り組みを指します。

これに先行して、JAXAでは2023年度から調布航空宇宙センターに「スマート保全」を導入しており、他事業所においても2025年度からの「スマート保全」の開始を目指し、整備を進めています。

※1 電気保安分野 スマート保安アクションプラン(経済産業省)

「スマート保全」とは

「スマート保安」は経済産業省や保安協会で使われる、電気保安のスマート化を目指す取り組みの名称です。それを受けてJAXAは電気だけでなく、機械や建物保全等、保全全体のスマート化を目指す、という意味で「スマート保全」と呼称しています。

調布航空宇宙センターでの実装

スマート保全の実現のためには設備状態常時監視に基づいた設備の長寿命化が、稼働の最適化には保全管理と運転管理の一体管理と連携が必要となります。特に劣化状態を事前に把握するためには稼働監視とともに定期年次点検を継続的に行い、必要なデータの蓄積、経時変化を把握・分析することが重要です。

今回の調布における更新工事は機器の更新整備と併せて、15年間の維持管理業務を包括した事業とし、民間企業の技術的能力等のノウハウを活用しつつ、最適運用によるスマート保全化を実現し、安定性・安全性を含めた高度な機能や性能を発揮させることを目的として維持管理業務付き工事発注方式を採用しました。これまで施設部では15年間という長期契約だけでなく、整備と維持管理をパッケージにした契約実績もありませんでした。しかし現状の課題を踏まえ、今回の工事については工事から維持管理まで見据えた整備、つまり「施工者・保全業者・JAXA」の三位一体の実現が必須と判断しました。検討を進める中で、他機関のPFI事業を参考とし、前例がない今回の契約方式を実現させたところです。

2023年7月には、飛行場分室にてデータ蓄積を開始しています。これにより整備から運用までをシームレスに実施することが可能となり、これまでの紙媒体からデジタル化された「運転管理」、「保全管理」、「分析管理」+「フィールドデータ(施設基盤情報)」を組み合わせ、JAXAのみならず、「施工者・保全業者・JAXA」含めた三位一体でデータ利活用を行うことで、施設最適運用の実現が近づくものと考えています。

スマート保全システム概要
スマート保全システム概要※2

※2 参考:まるごとスマート保安サービス(富士電機株式会社)

今後の展望

将来的には全事業所の需要設備を1箇所の事業所から常時・遠隔監視を行い、不具合発生時は遠隔管理により対象事業所近傍の作業員へ通知可能なシステムを構築します。保安管理に関しては旧一般電気事業者管轄毎に統括事業所を設置し、「広域運用化」を図る所存です。

現状の運用イメージ

現状の運用イメージ

>需要設備広域運用イメージ

需要設備広域運用イメージ

また、調布の次は、需要設備の「広域運用化」に資する遠隔一元管理可能なシステムとして、電力監視設備を具備しない「大樹航空宇宙実験場」「能代ロケット実験場」「角田宇宙センター」「地球観測センター」に対しては、2024年度までにベンダーフリーな電力監視設備相当のシステム整備を完了させる予定です。

当該設備は現地事業所(フィジカル)で状態把握できるだけでなく、以下図のとおりクラウド上(バーチャル)でモニタし、どの事業所からも状態把握が可能となるシステムとします。これまで各拠点へ散らばっていた紙ベースの点検・保全情報をデジタル情報一括可視化し、他事業所をベンチマークとした評価技術の高度化のみならずレジリエンス強化、省人省力化、予兆管理に資することが期待できます

なお、2025年度以降は他中小規模事業所へも同様のシステム構築を進め、3年後の2027年度を目途に1拠点から複数事業所を一元管理する“JAXAソリューションセンター(JSC:仮称)”の立ち上げを目指しています。

広域運用化に資するシステムイメージ
広域運用化に資するシステムイメージ