JAXA

電気推進研究室

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研究

マイクロ波放電式イオンエンジンの性能向上とプラズマ物理の解明

マイクロ波イオンエンジンは、小惑星探査機「はやぶさ」「はやぶさ2」の主エンジンとして用いられる宇宙用プラズマ推進機である。イオンエンジンやホールスラスタなどの電気推進機では一般に、プラズマ生成にホローカソードと呼ばれる電極を用いており電極損耗が問題となる。マイクロ波式では電子の共鳴加熱を利用しプラズマを生成するため、電極が存在せず、シンプルかつ省電力なシステムが可能となり、4万時間を超える長寿命を実現した。小惑星PhaethonへのフライバイミッションDESTINY+への適用が予定されており、更なる性能向上とその物理の解明が望まれる。また、プラズマを放出するというエンジン特性上、荷電粒子による周辺機器との相互作用が無視できないため、その影響を評価する必要がある。本研究室では、μ10内部のプラズマ生成部の状態を実験的・数値的に調査し、内部物理現象の解明に取り組みつつ、プラズマ領域における各種計測によって、宇宙機搭載機器を含めたシステム全体の寿命評価にも力を入れている。

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マイクロ波イオンエンジン.

プラズマ計測

マイクロ波放電式イオンエンジンやホールスラスタなどの電気推進機の、さらなる性能向上、および宇宙運用を通じて明らかとなった地上実験との差異を解き明かすには、希薄低温の非平衡プラズマの挙動を明らかにする必要がある.本研究室では、協同/非協同レーザトムソン散乱法、レーザ吸収分光法、レーザ誘起蛍光法, 2光子レーザ誘起蛍光法などの、先進的なプラズマ診断手法に取り組んでいる。従来用いられてきた、金属をつかったプローブと異なり、エンジン作動状態で、マイクロ波電磁場や、プラズマを乱すことなく、非接触型決済でプラズマ診断を実現している。現在は、プラズマの不安定性や振動に起因する高エネルギーイオンを時間分解能をもって捉えることに挑戦している。

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非協同レーザトムソン散乱法.

大気吸込式イオンエンジン

高度300km以下の地球超低軌道(VLEO)を周回する人工衛星用の大気吸込式イオンエンジン(ABIE)を研究している。VLEOは地球表面に従来400-800km程度の低軌道より低いため、地上観測の分解能向上や高速な衛星通信が期待できる。一方で、希薄な大気による大気抵抗を常に推進機によって補償する必要がある。衛星寿命が搭載する推進剤の質量に律速されてしまう問題点を克服するため、周囲の大気を取り込み推進剤とするABIEを実現を目指し、研究を行っている。これまでに、希薄な大気をインテークで圧縮し、プラズマ点火可能な圧力まで上げることや、推進機では可能な限り低い圧力でプラズマを点火し、抵抗を補償するに十分な推力を生成するよう改善をおこなっている。またμ10イオンエンジンをベースとしたABIEを用いて、プラズマの点火や推力測定を実験的に行い、数値シミュレーションを用いて内部の大気の流れを解き明かしている。

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作動中の大気吸込式イオンエンジン.

イオン液体エレクトロスプレースラスタ

イオン液体エレクトロスプレースラスタは、超小型衛星や超小型探査機への搭載が期待されるマイクロスラスタである。推進剤として使用するイオン液体は、常温で液体状態の塩(えん)であり、溶融塩とも呼ばれる。このイオン液体に高電圧を印加すると、イオン分子が高速で排出され、推力を発生する。プラズマを生成せずにイオンを引き出せるため、従来のプラズマ推進機では達成できなかった高い推進効率の実現が可能となる。さらに、印加する電圧の極性を反転することで、ほぼ同等の質量を持つ正/負のイオンを引き出すことができるため、プラズマ推進機に不可欠であった中和機が不要となる。本研究室では、図に示すようなスラスタのプロトタイプを製作し、その推進性能を評価してきた。今後は、推進剤供給系の開発、耐久試験、中和に関する研究を進めることで、イオン液体エレクトロスプレースラスタの宇宙実証を目指す。本研究は横浜国立大学鷹尾研究室との共同研究である。

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作理論モデルの概要。多孔質エミッタの内部から表面に至るまでの流れがイオン放出を決定していることを表している。(出典:Koki Takagi, Yusuke Yamashita, Ryudo Tsukizaki, Kazutaka Nishiyama, and Yoshinori Takao, “Simple model of multi-scale and multi-site emissions for porous ionic liquid electrospray thrusters”, Journal of Applied Physics 135, (2024): doi: 10.1063/5.0195699).

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