「可変性」と「キープコンセプト」の調和
相模原キャンパス 第3管制室整備
1970年に日本初の人工衛星「おおすみ」が打ち上げられて以降、様々な人工衛星や宇宙科学探査機が打ち上げられています。施設部では1987年に第1管制室を整備し、2017年には「はやぶさ2」の帰還に合わせて、プレス対応やチーム連携の強化を目的とした第2管制室を整備しました。
「はやぶさ2」以降も宇宙科学探査プロジェクトの数は増加しています。長期的に管制室を利用するプロジェクトの増加に対応するためには、新たに管制室・運用室を確保する必要があります。
そこで、プロジェクトごとの特徴や、打ち上げからクリティカル運用にいたるまでの運用サイクル、時代の変化に適合しつつも安定した機能の提供、作業者同士のコミュニケーションの維持を実現するべく、新たな管制室を2023年に整備しました。
第3管制室の整備にあたって、「可変性」と「キープコンセプト」の調和を主眼に置き、設計を行いました。
入口の腰壁には「七宝」のクロスを貼りました。円形が連なる形の七宝紋は「円満」「調和」「ご縁」などの願いが込められた縁起の良い柄です。ここで働くメンバーがプロジェクト成功への鍵となります。プロジェクトで繋がった縁を豊かにすることを願って、顔となる七宝紋を入口部分に配置しました。
機器搬入やユニバーサルデザインを意識して入口はスロープを設置しています。
探査機プロジェクトでは、長時間緊張状態で業務に従事する作業者が多くいます。光が溢れる通り道となるエリアにおいて柱幅分をセットバックさせることで、緊張感をほぐしたり、ちょっとした雑談ができるようなミーティングスペース(ゆとりの場)として整備しました。
また、天井からの下り壁にアクセントカラーを入れることで空間に変化を取り入れています。
居室に「木」を取り入れることで、リラックス効果が得られるなど、執務環境改善に繋がることがあると言われています。そのため、運用室は木目調のクロスを採用しました。
また、運用室・管制室共に居室内を「白」をベースに明るくすることで、視環境に配慮しています。
ケーブル配線を考慮しOAフロアを採用しました。また、帯電防止のタイルカーペットとすることでほこり付着防止などの美観に配慮しつつ、電気関係のトラブル発生を防ぎます。
管制室は「和」をモチーフとしています。モニター壁面には和紙調のクロスを貼り、消防法上の関係で必要な上部開口部は木枠とし、見学スペース側の壁面は天然無機塗材(塗り壁)としました。湿度の調整や消臭機能がある天然無機塗材を採用することで、長時間に及ぶ緊張状態への緩和に貢献します。
管制室を左右対称の整形に近い居室とすることで特定のプロジェクトに限定せず、想定する利用シーンに合わせた什器等のレイアウト自由度を高めました。
見学者スペースは宇宙空間に居るような感覚に浸れるように黒地にゴールドのパターンが施されたクロスを採用しました。
また管制室内を「白」・見学スペースを「黒」にして空間を対比させることで、見学という行為=舞台を鑑賞している気分になるよう演出しました。
見学者の声や物音が管制室内の作業者の支障とならないように、二重窓とすることで遮音性に配慮しました。
扉の色はエージェンシーカラーであるJAXAグレーを採用しています。JAXAグレーはJAXAの先進技術を表現しており、扉に配色することで先進技術によって未知への扉を開けることを意味しています。
また、扉枠含め各開口枠に「木」を採用することで、各室に共通点を創り出し「ゆるい繋がり」を持たせています。
従来の管制室は機能優先で整備される傾向がありました。今後の整備では、機能面の重視はもちろんのこと、ユーザーの働く環境も考慮した温かみのある建築を提供したいと考えています。
今回整備した第3管制室は、今後の探査機プロジェクトで使用されます。宇宙科学探査の深化、時代の変化に合わせて、管制室も進化させてまいります。