技術者、時々アンテナ博士宇宙進出を支える追跡管制のプロフェッショナル
米倉 克英
1993年入構
電波通信学科卒
追跡ネットワーク技術センター
技術領域主幹
REASON入構の理由
興味を広げて 行き着いた電波とアンテナの道
中学生のとき、地球に接近したハレー彗星を見て、宇宙に漠然とした興味を持ち、将来は宇宙にかかわる仕事がしたいと思いました。宇宙のことを調べているうちに、地球のまわりにはたくさんの人工衛星が飛んでいて、地上とは電波を使ってやりとりをしていることを知りました。電波のことを勉強すれば、宇宙にかかわる仕事に就けるかもしれない。そう考えて、今では珍しい高等専門学校(高専)の電波通信学科に進学しました。
就職活動中に知ったJAXA(当時NASDA)なら、衛星の開発や運用に広く携われるだろうと思い、応募しました。
WORKわたしの仕事
想定外のアクシデントにも冷静に対応
入構以来、一貫して衛星や探査機との通信にかかわる仕事を続けてきました。衛星や探査機が打ち上げられ動作が確認できるまでは、ミッションの成否にかかわる重要な作業が続くため、そのプロジェクトメンバー以外の職員も駆けつけて運用をサポートします。私もこれまでに多くの衛星や探査機の運用をサポートしてきました。衛星や探査機の地上システムは共通した機能を持っていることがほとんどです。しかし、ミッションの性質によっては特別な作業が必要な場合もあるので、漏れがないように準備しておくことが求められます。どんなに入念に準備していても、打上げ後に想定外のアクシデントが起きることもあります。衛星や探査機は一度宇宙に打ち上げられると、ハードウェアはもう修理はできません。起きている事象を正確に捉えて、地上側で解決する方法を模索します。
月を周回して観測する衛星「かぐや」にはミッションの構想検討からプロジェクトの立ち上げ、衛星と通信して機体をコントロールする追跡管制システムの設計開発、運用終了後のシステムの片付けまで、まさにゆりかごから墓場まで携わることができました。途中、3つの組織が統合してJAXA発足もあり、ほかの組織から来た関係者の方々との仕事の仕方や主義主張の違いから大きな壁にもぶつかりましたが、運用終了時は凄く感慨深く思いました。
現在は、次世代アンテナの概念検討や開発を行う傍ら、追跡ネットワーク技術センターのオリジナルキャラクター「アンテナ博士」の中の人として、お椀のような形のパラボラアンテナの役割や仕組み、宇宙開発の動向を子どもたちに伝える活動をしています。衛星のミッションは地上に設置されているパラボラアンテナがあってこそ成立します。せっかく打ち上げた衛星も、パラボラアンテナがなければ、地上と通信ができず、ただ宇宙を漂う金属の塊になってしまいます。
宇宙といえば宇宙飛行士やロケット、人工衛星の活躍に注目が集まりますが、パラボラアンテナの重要性も知ってほしくてイベントでの講演や実験教室に登壇しています。自分なりの言葉で宇宙開発やパラボラアンテナについて話し、それを子どもたちが目を輝かせながら聞いてくれ、「わかりやすかった。ありがとう」と言われると、嬉しくて思わず笑顔がこぼれます。
FUTURE将来の想い
大型パラボラアンテナで 新時代の宇宙開発を支えたい
目標は、現在検討している次世代大型パラボラアンテナの開発・整備をスタートさせ、成功に導くことです。地球を周回する衛星との通信に使うアンテナは直径3〜10mクラスですが、月を周回する衛星との通信には直径10〜20mクラス、さらに遠い惑星にまで行く探査機との通信には直径30m以上のパラボラアンテナが必要です。月や火星での探査が活発になる中で、その活動を支えるパラボラアンテナをつくりたいです。大型パラボラアンテナの建設には衛星を1基開発するのとほとんど同じ費用がかかります。世界を見ても、直径30mを超えるクラスの大型のパラボラアンテナは数えるほどしかありません。そんな大型パラボラアンテナをつくってこれからの宇宙開発を支えるのは、やはり私たちJAXAの役割だと思います。
JAXA職員は多くの人が「諦めない心」を持っています。上司や同僚の困難や壁にあたっても勇気をもって立ち向かう姿勢からは刺激を受けます。仕事をしていて落ち込むことやくじけることも多々あるでしょう。大切なのは、諦めず前を向いて次へ進んで行けるかどうかです。諦めずに前向きな気持ちを持っていられる方は、JAXAでの仕事を楽しめると思います。
CAREER PATHキャリアパス
入構してからこれまでのキャリア
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1st year
勝浦宇宙通信所 運用管理課に配属
勝浦宇宙通信所で地球周回衛星の追跡管制に使うパラボラアンテナの維持管理と運用を担当した。
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4th year
追跡管制部に配属。月周回衛星「かぐや」プロジェクトに携わる
筑波宇宙センターから各地のパラボラアンテナをモニタリングしたり、衛星の軌道を計算してパラボラアンテナを動かしたりするなど、地上から衛星を支える業務を担った。並行して、月周回衛星「かぐや」の構想検討からプロジェクトの立ち上げ、運用終了後の片付けまで、一連の工程を経験した。
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17th year
月・惑星探査プログラムグループ システムズエンジニアリング室に配属
小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」の地上システム開発や運用を担当した。
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21st year
月・惑星探査プログラムグループSE推進室に配属
小惑星探査機「はやぶさ2」の地上システム開発や初期運用を担当した。
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23rd year
追跡ネットワーク技術センターに配属(現職)
次世代アンテナの概念検討や開発を行う傍ら、「アンテナ博士」としてパラボラアンテナの役割や魅力を発信している。
THE OTHER SIDE OF THE MOON私の一面
温泉が好きです。衛星の打上げの直後は、やはり緊急で対応しなくてはならない業務が発生することもありますが、その時期を外せば長期休暇も取れます。連休は有名どころは混み合うので、山奥の秘湯を狙っています。