宇宙開発に学び研究者としての専門性を磨く
横山 崇
2018年入構
物質理工学院 応用化学系 修士修了
研究開発部門 第二研究ユニット 機構潤滑技術領域
REASON入構の理由
映画で観た宇宙飛行士を支える技術者たちに憧れて
物心がついた頃から宇宙が好きで、よく宇宙の本を読んでいた記憶があります。宇宙開発に興味を持つようになったきっかけは、中学生の頃に観た映画『アポロ13』です。アポロ13号を襲った爆発事故から、宇宙飛行士を無事に地球に帰還させるために奮闘する地上の技術者たちの姿に憧れました。
大学では航空宇宙や機械系の研究ができる学部・学科への進学を目指していましたが、第一志望は落ちてしまい、化学系の学科に進むことになりました。もう宇宙には関わることはできないだろうと一度は諦めたのですが、私が専攻した摩擦を科学する「トライボロジー(摩擦学)」または「トライボケミストリー(摩擦化学)」と呼ばれる領域の研究が宇宙開発に繋がっていました。トライボロジーは機械の寿命を伸ばしたり、より高性能な機械を開発したりするために必要な技術で、ロケットのエンジンや月面ローバ、人工衛星の開発にも活かされています。
JAXAへの就職を決めたのは、大学院で研究の面白さに気付き、研究者として働きたいと思ったからでした。研究は謎解きに似ていると感じます。よくわからないものや現象を分析したり、実験を行ったりしながら得たヒントを組み合わせながら謎を解いていきます。未知と向き合える研究者の仕事が自分に合っていると思います。
WORKわたしの仕事
宇宙×化学×機械工学でオンリーワンの研究者に
最初は、角田宇宙センターで再使用型ロケットエンジンに関する研究とH3ロケットの開発支援を携わりました。学生時代の専門は化学だったため、ビーカーやピペットの扱いには慣れていましたが、CAD(コンピューター上で設計図を作成するソフトウェア)で設計図を書く方法やボルトの締め方など、機械工学の基礎的な知識はほとんど持っておらず、配属された後に上司や先輩から手取り足取り教えていただきました。皆さん面倒見がよく、親切にしてくださったことが印象に残っています。この時に得た知識とスキルは、現在の業務の土台を築く重要なスキルとなりました。研究テーマに応じて新しい試験装置を自ら設計・製作し、新規性のある研究成果を追究することができています。
ロケットエンジンの研究を経て、現在は研究開発部門 第二研究ユニットに所属して、有人与圧ローバーの走行駆動系の研究開発を行っています。有人与圧ローバーとは、宇宙飛行士が車内で生活できる装置を備えた、約10年間にわたって月面で運用できる車です。
車は機械の塊で、摩擦が生じる部分がたくさんあり、それを潤滑させることで車は走行します。しかし、ほとんど空気がない真空の月面では、上手く潤滑できずに動かなくなってしまう、あるいは寿命が著しく低下してしまうパーツが多く出てくると考えられています。どうすれば月面で有人与圧ローバーを走らせられるのかが今の研究のテーマです。同僚とは異なる化学の視点や考え方で業務に当たることができる点にやりがいを感じます。
研究開発部門には「2割枠」と呼ばれる、業務時間の2割を自身の提案した創造的業務等に充てることができるという制度があります。この制度を使って、若手職員5人でチームを組み、アメリカのロケットで実験装置を打ち上げて、微小重力環境での月の砂のふるまいを調べる実験を行いました。私は実験装置の設計開発、組み立て、アメリカでの打ち上げ直前の作業まで一通りの工程を経験しました。研究は新しい技術を生み出す仕事ですが、設計開発は技術を使う仕事です。技術を使うユーザー側に立つ経験を積んだことで、「使ってもらえる新技術」をいかに生み出すかという視点が身につきました。
FUTURE将来の想い
進学やJAXAベンチャーの創業も 新たな強みをつくるために
目下の目標は、在籍している大学院博士課程を卒業することです。もともとの専門は化学、特にトライボロジーでしたが、JAXAに入構して機械工学を学んで2本目の柱を獲得しました。今は大学院の博士課程で、機械学習・AI技術を取り入れた研究を進めながら、情報科学やデータサイエンスの専門性を3本目の柱として獲得しようとしています。機械学習の世界では、仮想空間上で実験に近しいことができるので世界が広がります。情報科学やデータサイエンスの知見を活かして、何か新しい研究プロジェクトを立ち上げたり、月面関連の研究や設計開発に活用したりしていきたいです。
今後は研究だけでなく、ビジネスの知見も必要になるだろうと考えて、宇宙を題材とした人材育成や教育を行う事業を提案して「JAXAベンチャー」の認定を獲得し、Starry Canvasを創業しました。2割枠を活用して宇宙開発に関する広報普及活動に携わってきた知識と経験を基に、学生や企業に対して宇宙開発への参画を促し、さらなる宇宙開発の発展に貢献することを目指しています。
宇宙開発で必要とされる専門分野やスキルはどんどん広がっています。もちろん航空宇宙工学のバックグラウンドがある人材も必要ですが、今までの宇宙開発の常識を塗り替えるようなイノベーションを起こす研究や開発には様々な専門性を持った人材が必要です。専門分野によらず、少しでも宇宙開発に興味があるなら、ぜひ自分の専門分野やスキルを磨いて宇宙開発に活かしてください。
CAREER PATHキャリアパス
入構してからこれまでのキャリア
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1st year
研究開発部門 第四研究ユニット ロケットエンジンチームに配属
機械工学の基礎を教わりながら、専門分野であるトライボロジーの知見を活かして、再使用型ロケットエンジンに関する研究とH3ロケットの開発支援を携わった。
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3rd year
研究開発部門 第二研究ユニット 機構潤滑技術領域に配属(現職)
トライボロジーと化学の知見を活かして、有人与圧ローバーの走行駆動系の研究開発を行っている。有志活動で月の砂のふるまいを調べる微小重力実験装置の設計開発、運用にも携わった。
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6th year
JAXAベンチャー認定獲得 Starry Canvasを創業
宇宙を題材とした人材育成、教育などを行う事業を提案しJAXAベンチャーに認定され、Starry Canvasを創業。
THE OTHER SIDE OF THE MOON私の一面
映画鑑賞が趣味。サスペンスが特に好き。子どもが生まれてからは、休日は家族で公園に出かけることが多くなりました。子どもと遊んでいると疲れが吹き飛びます。