夢の月面拠点建設を目指して一歩ずつ持ち前の突破力を活かして
島田 潤
2013年入構
理工学部 応用化学科卒
国際宇宙探査センター 宇宙探査システム技術ユニット/有人宇宙技術部門 月極域探査機プロジェクトチーム
REASON入構の理由
人生を変えたNASA宇宙飛行士との出逢い
学生時代、アメリカに留学していたときに、奨学生として採用してくださったロータリー財団の集会で元・NASA宇宙飛行士のローレン・アクトンに出逢いました。目を輝かせながら宇宙での体験を語る彼の姿に惹かれ、私も宇宙のような未知の領域に挑戦したいと考え、帰国後、JAXAの門を叩きました。
入構当時、すでに国際宇宙ステーション(ISS)の建設が完了し、定常運用段階に入っていました。アルテミス計画はまだ発足していませんでしたが、地球低軌道の次はきっと月面社会の構築に向けて世界が動き出すだろうと考えました。自分の強みは、留学で培った国際的なコミュニケーション能力や困難な状況も乗り越えられる突破力だと自負しています。研究者として月面拠点開発に関わるのではなく、プログラム全体を取りまとめるポジションの方が自分には向いていると考え、そのような役割を担うことができるJAXAを就職先として選びました。採用面接では「月面拠点建設のプロジェクトマネージャになりたい」と繰り返しアピールしたことを今でも覚えています。
WORKわたしの仕事
スキルを磨きながら 月面拠点建設への道のり
とはいえ、入構してすぐに月面開発関連の部署に配属されたわけではありません。最初は、有人宇宙ミッション本部 有人宇宙技術センターで、ISSの「きぼう」日本実験棟に設置する実験装置開発を担当しました。宇宙についての専門知識はほとんどなかったので、諸先輩方に教えていただきながら、ISS搭載品の設計標準や試験標準に関する文書を教材にして勉強しました。
当時は、宇宙用の装置を一から開発するのではなく、地上で一般向けに販売されている民生品を取り入れることで装置の開発費を抑える流れが盛んになってきていた時期でした。「きぼう」日本実験棟の船外に設置したカメラに関しては、どんなカメラで何をどのくらいの頻度で撮影するのかなど、運用コンセプトから検討を始め、最終的に地上民生品のカメラを搭載しました。月面拠点建設の夢をまわりの上司や先輩は応援してくださり、「自分のスキルを磨け」というアドバイスをいただきました。有人宇宙技術センターで体得した技術的な知見やNASAとの調整能力はその後のキャリアでも大いに役立っています。
その後、経営推進部での業務を経て、入構8年目についに月面関連の仕事ができる部署に配属されました。現在は、国際宇宙探査センターと有人宇宙技術部門の業務を併任しています。国際宇宙探査センターでは、月面における水資源利用に関する研究開発の取りまとめを担当しています。月の砂には水氷が含まれていると考えられており、砂から水を抽出して電気分解し、得られた水素・酸素を宇宙機の燃料として使う構想があり、その実現に向けた研究開発を推進しています。今後日本が行っていくべき宇宙探査関連技術の開発計画をまとめた「日本の国際宇宙探査シナリオ」の策定も担当しています。
有人宇宙技術部門では、インド宇宙機関(ISRO)と共同で探査車(ローバ)を月面に送り、水資源探査を行う月極域探査機(LUPEX)プロジェクトチームに所属しています。私の担当は、ローバの走行機構の耐久性評価やローバ/着陸機間の通信機器の開発などです。JAXAの調布航空宇宙センターには、月の模擬砂(レゴリスシミュラント)を敷き詰めた実験フィールドがあり、そこでローバの長距離走行試験や障害物乗越えに関する耐久性評価を行っています。ローバを月面で1秒でも長く、1mでも遠くへ旅をさせて、月面における水資源の発見や次のミッション検討に資する走行データの取得に貢献したいです。
ライフワークとして、未来の研究者や技術者を育てる宇宙教育活動にも力を入れており、小中学校や博物館などでの講演やワークショップに積極的に関わっています。小学生からいただいた感想文に「島田さんの授業を聞いて、勉強を頑張ろうと思いました」と書いてあったときはとても嬉しかったです。子供たちからエネルギーを分けてもらえるだけでなく、無邪気な質問が新しい取り組みや技術検討を始めるアイデアの種になることもあります。
FUTURE将来の想い
「できない理由」よりも「できる方法」を探して
将来の夢は、月面拠点の建設をプロジェクトマネージャとして推進することです。月面基地ができて、月に人が常駐するようになると人類の活動領域が広がり、人々の考え方にも変化が起こるはずです。地球を大切にしようという思いが芽生え、未来を生きる子どもたちの人生もより良くなっていくことを期待しています。そのためには、社内はもちろん、海外の宇宙機関との共同プロジェクトでも信頼される一人前の技術者を目指していきます。
数十年先の宇宙探査のシナリオを描いていると「絵に描いた餅」だと揶揄されてしまうことも多々あります。今は技術的実現性が低く見えることでも、一度達成すれば実現可能なこととして認知されます。アポロ計画を実現させた先人たちもそうやって切り抜けてきたのですから、できない理由ややらない理由を探すよりも、どうしたら実現できるかを考えるべきです。そういうマインドを持った皆さんと一緒に並んでお仕事ができる日を楽しみにしています!
CAREER PATHキャリアパス
入構してからこれまでのキャリア
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1st year
有人宇宙ミッション本部 有人宇宙技術センターに配属
ISSの「きぼう」日本実験棟に搭載する実験装置やISS船外のハイビジョンカメラの開発を担当するなかで、地上で一般向けに販売されている民生品の宇宙適用に関する知見を深めた。NASA安全審査などを通じて国際調整に必要なテクニックを身に付けた。
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5th year
経営推進部 推進課に配属
開発の現場を離れ、JAXA全体の計画管理や危機管理を担当した。組織としての方針を考え、JAXAの経営陣をサポートする仕事で、大きな責任とやりがいを感じた。
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8th year
国際宇宙探査センター 宇宙探査システム技術ユニット/有人宇宙技術部門 月極域探査機プロジェクトチームに配属(現職)
国際宇宙探査センターでは日本の国際宇宙探査シナリオと技術開発ロードマップの策定、月面における水資源利用に関する研究開発の取りまとめ、国際宇宙探査協働グループ(ISECG)技術作業部会のJAXA窓口を、有人宇宙技術部門では月極域探査機(LUPEX)プロジェクトのローバ開発を担当している。
THE OTHER SIDE OF THE MOON私の一面
趣味は旅とスキューバダイビングです。大学の卒業旅行でJAXAの同期と南米を旅したのは、大切な思い出です。JAXAに入構してからも、たまにまとまった休暇を取って旅に出ています。自然が好きなので、週末は山でトレイルランニングをしたり、キャンプやBBQを楽しんだりしています。