安全と挑戦のバランス感覚

2014年にはやぶさ２が打ち上げられ、運用に参加しました。はやぶさ２は地球から約２億８千km離れた小惑星「リュウグウ」から岩石などのサンプルを持ち帰ることがメインのミッションでした。特に、はやぶさ２がリュウグウの表面に降り立つ「タッチダウン」の運用では、宇宙探査に求められるバランス感覚を得ました。一般的な人工衛星や探査機は、いかに故障のリスクを避けるかを重視して運用します。やはり宇宙に一度打ち上げるともう手が届かないので、トライアンドエラーなんてことはできないのです。はやぶさ２のタッチダウンに必要なカメラのパラメータも、万が一にも機体が壊れることがないように安全を第一に考えた設定にしようと考えていました。ところが、カメラのパラメータ設定とそれに基づいたシミュレーション結果を先輩方に見ていただくと、確かに危険は回避できているけれど、サンプルを回収するチャンスを狭めているのではないかというアドバイスをいただきました。安全と挑戦のバランス感覚の重要性に気づけたことは、私にとって大きな一歩でした。

その後、はやぶさ２は2020年12月にリュウグウのサンプルが詰まったカプセルを地球に届けてくれました。帰還したときはもちろんですが、帰還までのひとつ一つのイベントの成功が嬉しくて、その度にチームメンバーたちと喜びを分かち合いました。

その後はやぶさ２のプロジェクトは終了しましたが、はやぶさ２の機体にはまだ十分な燃料が残っていたため、新たに２つの小惑星を目指す拡張ミッション「はやぶさ２#」が始まりました。はやぶさ２では姿勢制御を担当していましたが、現在は運用リーダーとしてはやぶさ２#の運用全体を取りまとめています。拡張ミッションに移行するにあたり、運用チームも入れ替わりがあり、新しいメンバーが入ってきました。10年を超える長いミッションでは、若手への技術継承も重要なミッションだと捉えています。同じはやぶさ２の運用とはいえ、常に新しいことに挑戦させていただいています。