高緯度地方で見られるオーロラは高い高度から降り込んでくる電子が熱圏下部(高度約100-120
km付近)に存在する大気粒子を励起(エネルギーの高い状態に移す)した後、そのエネルギーが解放される時に生じる発光現象です。このようなオーロラ降下粒子や電磁力による加熱現象は熱圏大気に大きなエネルギーをもたらし、その結果として大気の運動(風)が駆動され、鉛直上方や水平方向に特徴的な構造をもつ風系を引き起こすという報告があります。同時に、著しい速度シアー(狭い距離で急激に風の方向や速度が変わる)の存在等多くの未解明の問題が浮かんできました。本実験の目的は、オーロラが発生している領域で大気(窒素分子)の温度や密度、オーロラ発光強度をロケット搭載機器により観測し、同時に地上の設備を用いてイオン温度や密度、中性風、オーロラ発光分布等を観測し、オーロラ発生時の熱圏大気の力学とダイナミクスの解明を行うことにありました。本実験はこのように「オーロラ現象に伴う大気の運動の解明」を主目的とするため、ロケットは高緯度に位置するノルウェーのアンドーヤロケット実験場(緯度約69度)から打ち上げが行われました。
観測結果の一例を紹介すると、窒素分子測定器から求めた値と本研究分野で最も良く使用されている大気モデルであるMSISを比べると、窒素分子の回転温度は高度110kmにおいて70-140K高く(図2参照)、数密度は高度95kmで70%、高度140kmで10%低いことがわかりました。窒素分子の温度が実際にこれだけ低いとすれば中性大気−イオン間の衝突周波数が大きく異なることとなり、中性風、電離圏電流、エネルギー輸送率の再考を促すことになります。
また、地上観測から得られた大気の鉛直上昇流や窒素分子の高い温度はEISCATレーダー観測に基づいて計算された加熱率と詳しい比較が行われ、加熱率の変化の後に比較的短時間で上昇流が発生していた事や、風の速度は降下粒子等によるエネルギー流入率と関連性をもつ事が明らかになりました。