開催結果 REPORT

<トークセッション第二部>若田飛行士×阿川佐和子×佐々木則夫 トークセッション

トークセッション第二部 動画

若田光一宇宙飛行士(JAXA)

若田光一宇宙飛行士
(JAXA)

阿川佐和子氏(作家・エッセイスト)

阿川佐和子氏
(作家・エッセイスト)

佐々木則夫氏(なでしこジャパン監督)

佐々木則夫氏
(なでしこジャパン監督)

ミッション報告会を締めくくるのは、若田飛行士、阿川佐和子さん、そしてなでしこジャパンの佐々木監督の3人によるトークセッション。どちらもチームを率いるという重要な任務を遂行する若田飛行士と佐々木監督が、リーダーとしてどうあるべきか、それぞれの「仕事術」を熱く語りました。

船長は中間管理職

阿川 かたやなでしこジャパン、サッカー日本女子代表監督というお立場、佐々木さん。そして、こちらISS船長ですからね。

佐々木 裏でトークは弾んでいたんですが、出てきたら緊張しちゃって。こんなところに来て良かったのかなって。

阿川 いやいや。さっきもちょっとうかがったんですけれども、本当にお父さんみたいな年齢の人たちを指揮するというか。「船長!」って言うと「何?」みたいなそういうようなことはないんですか?

若田 ISSのほうですよね?ISSでは実はですね、監督というよりは、選手兼マネージャーみたいな感じなんですね、ISSの船長はマネージメントしているだけでなくて、実験やったり、いろんな整備作業やったり……。現場作業をやって、あとはチームのとりまとめ役という形なので、選手兼マネージャー、それに中間管理職一緒にやっているような感じですね。

阿川 佐々木監督はずっとサッカー選手としてやってらして、その後、男子も教えられたりした。最終的に女子だけの世界に入って。そういう中で、佐々木監督は監督として、リーダーとして……。

佐々木 そうですね。僕、若田さんを最近テレビで拝見した時に、すごく温和な雰囲気を感じたんです。どちらかというと僕もウェルカムなタイプなんですよね。あまり鎧を着てガチっとしてないスタイルだから、今の選手もコミュニケーションが入りやすいのかなって。監督っていうとなんかやっぱり何か聞きづらい……そんな壁を作る傾向があると思うんですけど。
日頃からの雰囲気とか志を、どちらかといえば自分が広げてあげるような空気感を差し伸べないとなかなか難しいと思いますし、あとは対話ですよね。ちょっと調子悪くて言いたいこともあるんだろうなって思った時にはやっぱり対話が重要で、単純に対話じゃなくて聞いてあげるって思いをなんとか伝える。「なんかあったか?」とか聞いた時、僕に言いにくいことが2%、3%でも5%でも、出た時にはそういうこともあるよなってコミュニケーションの中で聞いてあげるって思い、開いてあげないとだめだなって思いはありましたけれどね。

若田 素晴らしいですよね。選手の皆さんの表情を見ていても、監督を本当に信頼しているって、それが表情になって出てきているじゃないですか。開くっていうことで選手の皆さんからの信頼を得てるっていう、やはりそこがキーなんですかね。

佐々木 そうですね、僕も意外にしっかりしたリーダーじゃないので、逆に言うと「ノリさん」って感じ。何か僕が失敗しても、「ノリさんじゃしょうがないかな」って空気感を彼女たちに持っていただけるような状況でもあるのかなって思うんですけど。


若田宇宙飛行士が考える優れたリーダーシップとは?

阿川 お二人とも船長、監督という名前がついているにもかかわらず、我々は中間管理職であるとおっしゃってらっしゃるようですけれども、どこがなんですか?

若田 宇宙飛行士だけでできる仕事というのはかなり少ないですよね。ISSでの作業計画みたいなものは、筑波とかヒューストンとか、いろんな地上管制局からの指示があるので、宇宙にいる仲間をまとめて、全体的な管理者からの指示を上手く仲間に伝えます。

阿川 メンバーに伝える。

若田 そうですね。それからメンバーの希望みたいなものもきちんと汲み取ってあげて管理部門に伝えると。そこでコンフリクトというか、ストレスが出てくるところもある中で、大きなチームのクルーのまとめ役をやるっていう意味で中間管理職って表現が適切じゃないかなって思います。

阿川 そうすると、例えば管制塔から「明日までにこれこれをやって、こういうふうにしなさい」って言われて、「おい、みんな聞いてくれ。これこれこうだよ」って、「えー!無理っすよ」みたいなことはあるんですか?

若田 結構ありますね。例えば、今度の土曜日に仕事しなきゃいけないって指示、提案がきた時に「どうする?」って。

阿川 どうするんですか?

若田 皆の意見を聞いて、監督がおっしゃっているように皆が発信しているメッセージをきちんと、特に悩みみたいなものをきちんと汲み取ってあげて、彼ら一人一人の意見を聞いた上で、「僕はこう思うけど、どうか?」って、皆の意見をまとめて地上管制局の方に伝えるという……その連続ですね。
民主主義的に皆に意見を聞いていられない時もあるんですね。例えば、意思決定を1日ないし2日でやらなきゃいけないときには、皆の意見も聞くけど、最終的には「これが僕の意見で、これでいこう」ってことで話を進めていきますけど、そういった、まれに僕がトップダウンの決定をする時にそれを信頼してくれる。それは普段のコミュニケーション、普段の信頼関係があってはじめて、トップダウンで指示をしても仲間が聞いてくれてついて来てくれるんじゃないかなと思います。

阿川 叱りつけるということはあるんですか?

若田 叱るっていうのはないですが、やっぱり作業上問題があったところはきちんと指摘するっていうのかな、それは僕に対しても指摘してもらうような雰囲気をつくっていますし、僕も仲間に対して改善するための建設的な指摘っていうのはとにかくタイムリーに言うようにしています。
例えば、クルーが宇宙で行っている作業に関して間違いがあっても、それを地上管制局がなかなか伝えにくいってところもあるので、そういう時にはここはもうちょっとこうしたほうがいいんじゃないかってことを仲間がきちんと伝えてあげるとか。そうしないと改善していかないと思いますし、そういうことでチーム力が高まっていくと思います。


個々の力を引き出すには?

阿川 いろんな相談が来ていますけれど、例えば「優秀な宇宙飛行士の皆さんは、それぞれ自分自身に対する自信とか実績といったものを持ってらっしゃると思うんですけど、だめな部下をどう育成すればいいですか?」って。後輩や個々の能力の引き出し方、その伸ばし方を教えてください。じゃあ佐々木さんから。

佐々木 僕も聞きたいですけどね。サッカーの指導している場合にですね、選手ってね、だめというよりも、サッカーのプレイの要素の中でウィークな部分、得意な部分をだいたい持っているんですね。ウィークな部分を何とか伸ばしたい、そうすれば何とかもっと大成するだろうって、そのウィークなところをガンガン指導して、言うわけです。最初は聞いているんですけれども、途中でシャットダウンしちゃう、聞かなくなります。
それは人間の構造にあるらしいですね、要は脳の。知っているんですよ、自分のウィークを。なんとかしなきゃいけないとは思っているんですけれども、そればっかり言われると遮断してしまって、いいところも出さないという状況になるんです。2対1くらいの割合で、いいところを褒めつつ、1でウィークなところを指導しながらやっていくと、意外にスーっと入って改善していきます。

阿川 褒めるが2に対して、だめだぞと忠告するのが1。

佐々木 そのバランスをとりながら、ヨイショするわけではないんですけど、誘導していくということですね。誰しも常に素晴らしい人間と仕事できるではないと思うんですね。そういうポイントもなんでなんだろうって考えながら、その人にアプローチしていかなければ、やはり中間管理職は無理なんじゃないんでしょうかね。

阿川 無理ですか。若田さんは?

若田 そうですね、チームの中で一人一人がいい仕事をすることが総合力につながっていくと思いますけど、やはり一人一人がやる気を持つっていうんですかね、やって良かったって思ってくれるような、任せられたときのうれしさってあると思います、仕事でもね。だからチームの一人一人を信頼して、力がないと思ったら、そのための支援はしますし、バックアップの人を付けたりはしますが、この仕事をして良かったという思いや、仕事を任された時の感動を積み重ねることによって自信につながりますし、その人の力の向上になるし、そういう一人一人がチームを支えればチーム力が出てくるんじゃないかなと思うので、一人一人のやる気を育てることですね。

阿川 サッカーにすれば、「勝とうよ、メダルをとろうよ」というモチベーションというのがあると思いますけど、宇宙飛行士の方々のモチベーションというのは何なんですか。

若田 宇宙のミッションというのは当然安全第一で、ISSの機能を維持した状態でいろんな実験とか観測をしますけれども、どれだけの実験ができたかっていうことが、時間でシビアに出てくるんです。チームとしてこれだけできたっていう時の達成感みたいなのってあると思いますね。その数字を伸ばすために一人一人の力に応じて作業していく、アサインしていく、任せると。


第2、第3の日本人船長を

阿川 1回なると次も船長になれるんですか?

若田 船長を何回もやっている人もいますけど、大切なのは、やはり日本から第2、第3の船長を出すことですね。船長になれる人がずらっと並んでいるんですけれども、この中で油井さん、大西さん、金井さん3人は新人さんで、油井さんが来年の夏から半年間、その次は油井さんの1年後に大西さんがISSに半年行きますし、金井さんもいつ宇宙に行っても仕事ができる準備ができているので、まず彼らが旅立っていくと思いますね。それに、前列にいる宇宙飛行のベテランの人は皆船長になれるような素晴らしい人なんで、ぜひこの中から第2、第3の船長が出てほしいなと思います。

阿川 もうひとつ伺いたいんですけども、スペースシャトルが中止になって、それでロシア語を急に勉強しなきゃならなくなっちゃったっていう状態があって。冷戦の頃はロシアとアメリカはある意味で宇宙開発の競争みたいなことをしていたのが、今はもう本当に協力体制になっていると。これ今後どうなるんですか?

若田 やはり宇宙は人類共通のフロンティアです。ですからいろんな国が協力して、宇宙へと人間の活動領域を広げていかないといけない。実は競争と協力っていうのはバランスしなけきゃいけなくて、協力だけでも駄目だし、競争だけでも駄目だと思うんです。日本なんかもいろんな製品で世界最高水準のものがあると思いますけれど、いろんな科学技術立国が持てる力を活かす。ロケットだってそうだし、車だって電化製品だってカメラだってそう。そういった物を持ち寄って、その技術をもって協力することで、世界の人たちが享受できるより豊かな技術が生まれたり、国際協力を通して、より平和な世界が訪れると思うので、ISSみたいな協力プロジェクトというのは国際協力の元でももっともっと拡大していくと思います。ですから、月や火星に行く時というのは、今以上にもっと大きなレベルでの国際協力になると思います。
先ほど日本の宇宙飛行士8人の写真が出てきましたけれども、今日は油井亀美也宇宙飛行士が忙しい訓練を筑波で夕方までやって、ここに駆けつけてくれているんですね。彼は次のJAXAの宇宙飛行士で、ISSでがんばってくれます。

阿川 油井さんは、パイロットでいらっしゃった。

若田 JAXAの宇宙飛行士としては、初めてのパイロット出身の宇宙飛行士です。来年ソユーズ宇宙船で宇宙に行って、素晴らしい活躍をしてくれることになっているのでね、本当に彼の活躍が楽しみです。頑張ってください、油井さん。


正しいジャッジのために、訓練を重ねる

佐々木 船長というと、何か有事の時、何か問題があった時に力を発揮するかっていうところですよね、実質的には。

阿川 本番で思わぬことが起こった時に。

佐々木 いちばん何か困ったジャッジって何かなかったのですか?

若田 そうですね、先ほどもお話しした宇宙船の到着が遅れたときの作業スケジュールの変更みたいな、そんなに複雑なことじゃないと思うんですけれど、それで仲間の疲労が高まっていくような状態になった時の残業時間だとか、土曜日の作業時間をどうするかとか、そういう時の細かな調整っていうのが困ったなと思いますよね。
やっぱりそれはそのための準備というのかな、地上の関係しているチームの皆さんとの調整をフライト前からきちんと綿密に行っていくことで解決できたんじゃないかなと思うんですけど。緊急事態があった時、例えばISSに火災とか、隕石がぶつかって大きな穴があいたら急減圧になっちゃうんですよね。あとは冷却用のアンモニアがISSの中に漏れ出すとわりとすぐに致死量に達しちゃうので、そういう時にどういう対応をするかっていう訓練、緊急対応訓練っていうのを結構します。
そういういろんなことを想定した緊急時の訓練を重ねることで、何か起きたときの、なんて言うんですかね、ディシジョン、チームの導き方みたいなそういうテクニックが学べるんです。
佐々木監督は何か起きた時の監督論みたいなものは、それまでの先輩の監督というか、チームの一員として仕事していた時のリーダーのような方から学ぶことが多かったですか?それともご自分で開拓されたところのほうが多かったですか?


佐々木 たぶんいろんな指導者から僕自身が感じたり経験したものが入っていると思うんですけど、実質的には何があっても僕が責任を取ると。それと常に試合の状況を覚悟して準備し、覚悟して戦況を見るということから振り返ると、劣勢な状況であっても意外に冷静に見れたり、PKになっても笑える、笑顔が出てきた。それはたぶん戦況を見て、そして責任は誰が取るって、僕が取るということを自然に覚悟したから……。

阿川 最後に今日の感想を。

佐々木 僕からいいですか?本当に勉強になりました。僕自身の仕事についても若田さんの仕事を通じながら学ぶこと多くてですね、どんな時でもやはり食事って大事なんだなと。選手にね、本当にここっていうときはおいしいのを誘わなきゃなって。
本当にやはりいろんな、アメリカやロシアの人たちの間に入ってしっかりコントロールしている、そしてすごく誠実に喋っているオーラですね。僕もどちらかというと押し付けるタイプじゃないので、これからも若田さんのようににこやかな形でなでしこに指示をしていきたいなと。

若田 お二人からいろんなお話をうかがって、佐々木監督の素晴らしいリーダーシップやその思いみたいなものは、ISSのリーダーシップにもつながるところもあるのかなと。チーム一人一人の体のコンディションがどうなっているかとか、一人一人の思いをきちんと汲み取ってあげる、そのコミュニケーションが信頼につながっているということを強く感じましたし、それはISSのチームの仲間でも同じなのかなと思うので、コミュニケーションをきちんと図ることによって信頼を勝ち得るってことですかね。
それから何か問題があった時には自分が責任を取るということ。それはISSでも結構ありました。そういう覚悟があるということが重要であることは、宇宙での仕事でも、サッカーの監督の仕事でも共通するところがある。チームの中で何かをしていく時には、どういう分野でも当てはまる共通の事項じゃないかなって感じました。

阿川 長い時間、たくさん貴重なお話をうかがいました。これからJAXAがどうなるのか、日本人初の船長が誕生したことによってやはり日本の宇宙開発にも大きな広がりが出てくることがあるのでしょうか。

若田 そうですね、ある意味で日本の有人宇宙活動のマイルストーンだったと思いますし、宇宙開発の分野でも日本が本当に信頼されるものを築き上げてきたので、人的な貢献という意味でも、日本人が顔の見える形でリーダーシップをとれる時代になったと思います。これをさらに第2、第3の船長を通して、そして月、火星へと発展させていく必要があると思いますね。

阿川 期待しております。本当に今日はありがとうございました。佐々木監督もありがとうございました。