開催結果報告

第二部「宇宙飛行士から見た将来の展望」

秋山豊寛氏、立花隆氏、高柳雄一氏と宇宙飛行士(毛利、向井、若田、野口、金井)をパネリストに迎え、室山哲也氏(NHK解説主幹)のモデレートにより、「ヒトはなぜ宇宙に行くのか?」というテーマでパネルディスカッションを行いました。「有人宇宙開発を行うに足る覚悟が日本人にはまだない(立花氏)」「有人宇宙開発の素晴らしさは費用対効果では測れない(秋山氏)」「人間が持っている『感性』でしか伝えられないこと、出来ないことがある。(向井飛行士)」「技術力は国力、有人宇宙開発はその技術力を高める選択肢(若田飛行士)」「最終的に目指しているのは総合智(野口飛行士)」といった様々な視点から意見が出され活発な意見のやり取りが行われました。
パネルディスカッション「ヒトはなぜ宇宙に行くのか?」
モデレータ :室山 哲也(NHK解説委員)
コメンテータ :JAXA宇宙飛行士
 (毛利 衛、向井 千秋、若田 光一、野口 聡一、金井 宣茂)
 秋山 豊寛(ジャーナリスト、宇宙飛行士)
 立花 隆(ジャーナリスト)
 高柳 雄一(多摩六都科学館 館長)
パネルディスカッションサマリー版

パネルディスカッション(動画)

写真レポート

■ パネラー
毛利 衛(宇宙飛行士、日本科学未来館 館長)
向井 千秋(JAXA宇宙飛行士)
野口 聡一(JAXA宇宙飛行士)
若田 光一(JAXA宇宙飛行士)
金井 宣茂(JAXA宇宙飛行士)
秋山 豊寛(ジャーナリスト、宇宙飛行士)
高柳 雄一(多摩六都科学館 館長)
立花 隆(ジャーナリスト)
■ モデレータ
室山 哲也(NHK解説委員)
■ パネルディスカッションの様子

【 パネルディスカッションサマリー 】

■ ディスカッション(導入)
室山 今日議論するのは一点です。日本はこれからどのような宇宙開発をすればよいのかということについて、議論をしたいと思います。特に、有人宇宙開発、人間が宇宙に行って何かをしていくということについて、日本はこれからどうするのか。ちょっと問題提起をしたいということですので、立花さん、お願いします。
立花 一言で言えば、僕は日本が有人宇宙飛行をやることには反対です。日本はやらない方がいいと思います。別の言い方をすれば、有人宇宙飛行に取り組む準備が、日本はできていません。国家として、それから日本人として、それを許容するだけのキャパシティーが日本人にはありません。
それともう一つは、それだけのお金を投じて、宇宙で何を得られるかという話なのです。現実に人間が宇宙に進出して、何をしてどういうリターンを得たかを冷静に考えると、宇宙に投じたお金に匹敵するほどのリターンは、これまでなかったと言わざるを得ません。
■ ディスカッション(本編)
秋山 私は1961年4月12日、ガガーリンが宇宙に行ったのを見たわけではないのですが、ニュースで知りました。そのときの「地球は青かった」というメッセージは、ものすごいインパクトのあるメッセージでした。僕らは「地球号」という宇宙船に乗っている呉越同舟の仲間なのだということを感じさせてくれる、ものすごいキャッチコピーだったと思っています。そういう意味で、宇宙開発、特に有人宇宙開発が費用対効果で計られるものなのだろうかということです。
それから、「失敗に耐えられる日本なのか」という問題、これは、訓練なのですよ。私は、挫折し、失敗し、成功しなかったことを積み重ねることの中で、耐えられる力は養われるのだろうと思います。
野口 僕たちが次の世代にできることというのは、赤字がたまっているということと別に、将来に向けてやらなければいけないことがあるのではないでしょうか。
有人宇宙がそうかどうかは別として、われわれはいずれにしても、次の世代に膨大な負の遺産を残すことになるわけで、だったらせめて何か次の世代の子どもたちが夢を感じることを、残してあげないといけないのではないかなと感じます。
向井 有人宇宙飛行には賛成という立場です。確かに、アメリカとか日本とか、そういった国民性を考えると、アメリカのようにパイオニア精神で屍を乗り越えて行くという国民性と、日本のように島国で、内なる、中に中にトランジスタを開発したようにどんどん行くような方向性の違いはあっても、それはやはり、エクスプロレーション、知りたいものを知る、ディスカバリーをすることには変わらないと思います。私は日本はそういう意味で、屍を越えていくというアメリカ人的な気質はないかもしれないですが、日本人的な考えで、自分の活動圏を広げていくことは十分にできると思います。
「お金がないから」というのは、all-or-none、0か100で考えるべきではないと思うのですね。それは、今できる範囲の中で、将来に向けてできることをやればいいのです。それがどんな小さなことであっても、そのことで目が将来を向いていれば、みんな、体の中から明日に生きる力が出てきます。いろいろなことに無尽蔵には使えないですが、やはりバランス感覚を持ってやるべきだと思います。
何が得られるか。これは立花さんのコメントは、マテリアル的なものしか出ていないのですね。私は、宇宙開発がもたらした大きな恩恵は、物質的な目に見えるものだけではなくて、精神的な、これを私は英語でよく、material spin offに対してspiritual spin offと言っているのですが、それは、やはり地球がグローバルで、自分たちの故郷であって、そしてわれわれは日本人であれどういう人たちであれ、一人の人間として生きていて、より良い人生を求めるようなものを、誰もが持っています。みんなの幸せは私の幸せ、そういったことや、あるいはみんなが悲しんでいることはわれわれの悲しみだということで、受け止められてきています。こういったものをお金に換算することは難しいのです。
立花 日本はやはり、日本の身の丈に合った独自性を持った宇宙開発の方向を出すべきであって、それは一番いいのは、日本が世界に遜色がないどころか、世界をはるかに抜く高い技術を持っているのは、宇宙におけるロボット技術です。
それで、その証左が「はやぶさ」です。「はやぶさ」は、あのシステム全体、あのフライト全体が、全部がロボットと考えればいいわけです。それで、要するにあれは誰も乗っていないのですよ。それで、お金もそれほどかかっていないのです。あれだけのものを造って、あれだけきちんと帰らせたという、ほとんど奇跡のようなことを実現したあれは、日本の技術の頂点と考えてもいいと思うのですね。ですから、日本はもう少しそのような方向にやるべきであって、今有人でやっても、アメリカなどの後追いをするだけで、いかにも日本が初めて人をやって、それで何をやりましたというようなものがきちんと持てない限り、日本独自のお金はちょっと出せないと、僕はいまだに思っています。
若田 究極的には、有人だとか無人だというのは、ある意味では方法論の違いの議論にすぎないのかなと。日本の持っている技術のレベルと、それに応じて目的が何であって、そのために有人で行くのか無人で行くのかという議論になるのかなと思います。究極的には、科学技術はロボットが支配するのではなくて、人類、人間が主人公であることは、皆さんは疑いの余地のないところだと思うのですね。そういう意味で、有人宇宙開発を進めていく中で、方法論として費用対効果は常に考えなければいけません。それから、技術達成レベルも常に考えなければいけませんが、そのときにロボットなのか有人なのかを、そのときに応じて使い分けて進めていく必要があるのかなと思います。
安全に関しては非常に重要です。ただ、今日も筑波宇宙センターでは「きぼう」の運用管制室が、24時間体制で国際宇宙ステーションの運用を見守って操縦をしているわけです。これは実は、事故がないからあまり表に出てきませんが、非常に難しい作業なのですね。「きぼう」の中で人身事故があれば、これはすぐにJAXAが責任を問われます。ですから「きぼう」の構造・設計とか、「こうのとり」を宇宙ステーションに打ち上げて、星出さんたちがつかんでくれましたが、実はあれはもう有人機なのですね。それが衝突すれば大事故になります。その安全性を確かめた上で、私たちはそのような活動をしているので、われわれは既に、有人宇宙活動を本格的に行っている時代になっていると思います。
一つ、申し上げたいのは、やはり技術力というのは、そのまま国力だと思います。技術力というのは単なるテクニカルな技術だけではなくて、それを支えている人材があります。その二つがあって、人材と技術があって技術力です。それはそのまま国力だと思います。
 私たちは宇宙開発、ロケットとか有人宇宙開発を通して、世界で非常に信頼される技術を達成してきていると思いますし、それをさらに次のステップにつなげていくことは、誰でもできることではなくて、科学技術立国でしかできません。そのような予算の余裕のある科学技術立国は世界にないと思います。日本がその中で、科学技術立国として今後も世界に貢献していくときに、宇宙は避けて通れないところだと思いますし、日本の宇宙技術の技術力を高めていくときに、その有人技術は大きな指標になるのかなという印象を持っています。
金井 われわれの若い世代というのは、日本人に宇宙飛行士がいることが当たり前です。そして、日本の宇宙飛行士が宇宙にいることも、いまや当たり前です。日本が有人宇宙をやっているというのが、日々のニュースの中であったり、生活の中であったり、それがそのようなものだと思って育ってきた世代です。
まず、そういった認識が既に国民の若い世代の中にあることが、この20年間の一つの、目には見えない成果であるかなと考えています。
高柳 まず、20年間JAXAがやってきたことで、世界の宇宙機関と違うことを独自にやったことからお話ししたいと思うのですが、毛利さんが社会還元という話をされていましたが、あの水中花を作って飲み込むことは、お金がかかってないですよね。
宇宙飛行士のものすごくタイトなスケジュールの中で、隙間を縫って子どもたちに面白宇宙実験や、宇宙不思議実験、宇宙医学にチャレンジとか、宇宙が人間活動の場として、こういうユニークな世界で、ここで人間はこんな挑戦ができるのだということを、この宇宙機関は見事にやってきているのです。宇宙が私たちにとってどういう世界かというのを、子どもたち、一般の科学者ではない人たちに見事に近づける試みやっているのは、多分、宇宙機関の中でJAXAだけだと思うのです。
そういう意味で言うと、私が科学館にいて子どもたちを見ていて、子どもたちのイメージの中では宇宙開発というのは、最終的に有人なのですよ。少なくとも高い目標を置いておくことによって、技術力をきちんと維持しながらバトンタッチしていける環境を非常に大事にすべきだと思っています。
 
室山 日本が有人宇宙開発を独力で日本のロケットで日本の宇宙機に日本の宇宙飛行士を乗せて100km以上の宇宙空間にそれを届けて宇宙活動をすることをフルコースだとすれば、日本の実力は今実際どこまできているのですか。絵空事の話だったらもうやるのをやめたいのですが、今、どのくらいまで力があるのですか。
野口 力はあると思います。理由は三つあって、既に3回成功している「こうのとり」は、人が乗っていないだけで、私も有人機だと思っています。人が乗っていませんが、その中にあるものを安全に宇宙ステーションまで運んで、あと足りない部分は帰還させる部分なのですが、われわれは今、やっています。
それから、地上でそれを支える体制です。管制官もいますし、お医者さんもいますし、われわれもように乗組員もいますし、それも含めて総合的に日本は養ってきています。
そして、何と言ってもそれを支えるのは、お金だけではなくていろいろな形で、国民的な理解が必要だと思うのですが、それに向けてのいろいろな活動が進んでいるのだと思っています。それは、人間が宇宙に行くことに対するポジティブな将来像であり、そこからもたらされる文化的、精神的な成果も含めて、それを受け入れる土壌が日本にはきっとあると信じています。
毛利 冷静に考えてみると、立花さんの考え方は非常に、今の日本社会を考えてみたときに当たっているのではないかなと思います。
そのときに、では「あなた方、夢はいいですよ。確かに将来の可能性はありますが。では、失敗してもやりますか。乗り越えられますか」というところを、やはり私はもっともっと議論する必要があると思います。
先ほど私は基調講演のときにも言いましたが、筑波の宇宙センターで実際管制室をのぞいてください。実際に人間が「きぼう」にいますから、何かあったときに、それはそれは大変な訓練を現場でしています。もっともっとそれを、皆さんの仕事や日常生活の中に見えるようにして、やはりそういう覚悟が必要かなと思います。社会全体で日本をもっともっと強くしていかなければいけないことは、共通だと思います。私は、そういう訓練をさせてくれるのが、国際宇宙ステーションの大きな有人プロジェクトだと思います。
一番大事なのは、特に有人宇宙飛行技術はいったん途絶えるともう返ってきませんよということで、いつやるかは別にして、絶えずそれをつなげていくことが、私は実際の日本が今考えることではないかなと思います。これから火星ミッションが出ます。そのようなときにも、先にきちんと手を打って協力するのです。それが国際的な安全保障にもつながると同時に、日本の技術が貢献できるということは、逆にそこを通じて、日本の技術がさらに高まるということなのです。やはり、そういうしたたかな戦略を社会が持つかどうかだと思います。
室山 立花さんにちょっと伺いたいのですが、これから有人宇宙開発が持っている価値は一体何なのかと。人間が宇宙に行くことでしかできない素晴らしいことは何なのということです。有人か無人かは別として、宇宙という一つの次元の高い高みのツールを手に入れることで、人類が何か予期せぬ、これから本当に想像もできないものすごく大きな価値を生み出す価値をそこで生み出すかもしれません。その中に、有人宇宙開発が入っているかどうかということなのです。立花さんへの質問は、有人で宇宙に行ったときに、いつか大化けして、本当に人類が救われるというようなことはないのですか。
立花 宇宙に人間が行くことにどういう価値があるということは、僕はいろいろな形で書いてきたのですが、何よりも大きな価値は、人間というのは、要するにこの世の中に起きるいろいろなことを感じるセンサーの中で、最高のセンサーだということです。
それで、ある人類の代表者的な、人間が行って感じたことを伝えると、全人類が「ああ」といって共感する部分が必ずあるのです。ロボットが行って帰ってきて、何かデータはこんなデータを得ましたみたいなことを言って報告しても、何の共感も与えません。人間が行って、人間の受けた感じ、感覚というものを人間に伝えたときに、初めてそういう感動的なレポートができて、その価値ができてくるのだと思います。
非常に重要な問題は、宇宙は普通の人が考えると、想像もできないほど広いということです。宇宙をとことん探究しようと思うと、われわれ人類が持っている現在の観測手段では、とても計り知れないほどの大きさを持っています。「宇宙の謎」というときは、もっともっと広くて、そちらの方は全く違う手段でやらなければならないのです。JAXAというとここにいる宇宙飛行士がいるJAXAだけだと思っていますが、そうではなくて、科学衛星を飛ばして宇宙を調べるというのも、全部JAXAがやっているのです。それで、日本がそういう科学観測衛星としてJAXAが実際に上げて研究している宇宙の姿は、皆さんが知っている以上に、ものすごく高い水準にあります。そのことをもう少し知ると、実は宇宙飛行士がやっていることよりは、それがはるかに大きなことであって、それ的な技術の可能性で初めて分かってくる宇宙の姿がもっともっと大切で、そういう視野の広さで、国の予算をどちらへ向けるのかというあたりを、そういう視野が広い角度から見ていってほしいという思いがします。
向井 私はみんな視野を広く持っていると思うのです。立花さんのおっしゃる、いわゆる宇宙科学は本当に大事だと思います。その大事さや面白さとまた違った、私は深宇宙という、そこまで人を送らなければいけないというものが有人宇宙飛行とは思ってないのです。私たちの今の技術の中で人間の生活半径を拡大していって、低軌道のところで一番面白いのは、重力がない研究室ができることが、私は宇宙ステーションの最大の売りだと思います。いわゆる宇宙環境利用を使った科学をやっている人にしてみると、立花さんが深宇宙に夢を持っているのと同じように、われわれは夢なのです。そういう意味の夢が出てくると思います。
それと、人間でなければできないことというのは、やはり感じることやそういうことだと思いますね。これは「感覚」と「感性」は違うと思います。ロボットは「熱い」「寒い」「硬い」「柔らかい」などの感覚はあると思います。しかし、「感性」という意味のものは、やはり今のロボットはありません。私は、人が自分の行動を拡大していくところにそういう意味があって、やはりそういったものを開発していくのが宇宙開発だと思います。
 
若田 国際協力というのは、協力だけでは実現しなくて、各国が切磋琢磨して競い合える技術力を持っている人たちだけが同じ土俵に上がれると思います。ですから、そういう意味では、科学であろうと、有人宇宙開発全般に同じようなことが言えて、やはり技術力を持った国だけが参加できるところだと思いますし、その技術力を持った国がそれを進めていくことが、その科学技術立国の使命だと思います。
■ ディスカッション(まとめ)
高柳 20年間、日本の宇宙開発機関が、それなりの日本らしさを生かしながら、ここまでいい仕事をしてきたので、これを絶やさないようにキープしながら、やはり少しずつ少しずつ上を目指してほしいなという気がします。そういう意味では、目線の高い希望を持ちながら、等身大で仕事をしていくという、日本人のある意味での良さを、ぜひ生かすような形で続けていただきたいなと思っています。
立花 僕は日本の宇宙開発に常に応援団として存在してきましたし、今もそういうつもりなのですが、それで一言今の議論に付け加えることがあるとすれば、日本は本当に経済的にはひどい状態にあります。それで、景気も悪いです。これは世界中の国が、基本的には実はケインズの理論に従った経済運営をしているのです。それは何かと言うと、景気が悪いときはとにかく公共事業をやるということです。公共事業の種がなくなったら、たとえ砂漠にピラミッドを造って崩して、もう1回造ってまた崩してということを繰り返すだけでも、実は経済はきちんと回るようになるのだと、公共事業とはそういうものなのだということです。実は世界中の国がそれをやっているのです。
実はこういう宇宙開発の事業に投じるお金というのは、経済的にはそういう効果を持っています。ですから、決して砂漠にピラミッドを造って壊して的な非生産的なことではなくて、非常に広い意味で、世代を超えての生産性を持った事業として、日本は宇宙開発にもう少し金をかけてやっていくべきだと、本心ではそう思っています。
秋山 僕は日本独自の宇宙開発の、まさに日本的なことというのは、今度のJAXA法改正で削除されてしまいましたが、日本の宇宙開発は平和目的に限るということ。この日本国憲法の、私たちの社会を枠付けている大きな平和主義の下に、宇宙開発が行われてきたことが、一番の成果だったと思っています。軍事というものに引っ張られないという点を、どうかこれからも忘れないでいただきたい。これだけです。
金井 毛利さんの最初の講演の中で、日本の有人宇宙開発±20年というタイトルでした。これまでの20年を見てきて、その後の20年後、自分がまたこの場に立ったときにどのようなことを語れるのだろうということを考えながら、明日からまた仕事をしていきたいと思います。
若田 来年、国際宇宙ステーションの半年の長期滞在の後半は国際宇宙ステーションのコマンダーを担当させていただきますが、過去、宇宙船の船長というのは、ロシア、アメリカ、中国、ベルギー、それから間もなくカナダがコマンダーを経験しますが、全員が軍人出身です。ですから初めて、私は民間の技術者出身ですが、そういうものがやはり、皆さんと一緒に埼玉県さいたま市で勉強して、NASDAやJAXAを通していろいろ勉強させていただいたことを通して、世界のチームをまとめる仕事をさせていただきます。
ですから、そういう経験をできる人材を輩出できる。これは人材ではなくて、やはり日本の技術力だと思います。それがあって初めて、私たち宇宙飛行士の仕事が成り立つのだと思いますし、それはやはり、皆さんが日ごろ努力して確立してきてくださった技術力のおかげだと思います。
究極的には、人類の種としての保存のための営みが有人宇宙活動だと思います。その中で、品質管理能力だとか、日本が世界に誇れる技術がたくさんありますので、それを生かして日本や世界の平和、技術開発のために役立てていくことが、科学技術立国の日本の使命だと思いますし、その中に有人宇宙活動はあるのではないかなと思います。
向井 私にとって有人宇宙開発というのは、あまり肩に力を入れずに、私たちの活動圏を、より科学技術なり、ロケットなどの乗り物などで、どんどん広げていく、そしてそれは可能性を広げていくことにつながっていくのだというくらいのもので、逆に子どもたちは軽い気持ちで考えてくれて、そういったものの力が集まってくれば、やはり日本の進んでいく道が出てくるのではないかと思います。
 
毛利 私が人工衛星のスプートニクが飛んだのを見て、宇宙に初めて興味を持ったのが小学校4年生でしたね。同時に、「鉄腕アトム」や原子力もすごいなと思いました。それから南極観測船「宗谷」という、日本が初めて南極に行き、科学者もすごいなと思いました。みんな、わくわくしたのですね。
ガガーリンという人が初めて宇宙に飛んだのは、私は中学2年生のときでした。そのとき、彼が発した「地球は青かった」という言葉を聞いて、「どんな青なのだろうか」ということで、宇宙飛行士になってみたいなと思ったのが出発点です。
それにずっと憧れていて、それからちょうど30年後、中学2年生の14歳から30年後ですから、44歳になって実現したのですね。たまたま私は、ガガーリンがテレビに映っている写真を撮ったのを、他の国に行ったときにも、自分がそれで本当に夢が実現したのだということを話したところ、他の国の人も、そういうことに感動して、自分の夢を賭けるのだということを、みんなに驚かれました。
それと同時に、宇宙というのはいろいろなものを含んでいます。現実的になってくると、研究者が興味のある宇宙科学、それからそれを軍事的や政治的、ビジネスで利用しようとします。いろいろなものを含んでいるのですが、では日本はどういう方向に進むのかということを今日話されたのですが、いろいろな判断をしていただきたいと思います。その中で、私にとってみると、やはり去年の津波がすごく大きな、今、日本というものが次に向かうときに、大きな位置を占めているのですが、ひょっとして、有人宇宙ということを考えること自体が、前もっていろいろな危険なことに準備していく訓練になるのではないかなと思っています。もちろんお金のことはまたお金で考えないといけないと思うのですが、もっともっとたくさんの人に議論を巻き起こして決めていくのだと思います。
野口 現役宇宙飛行士を束ねる立場として、僕たちは今何を考えているのか。 僕たちは、現役宇宙飛行士として、わくわくする未来を語る必要があると思っています。つまり、何かというと、ビジョンを共有するということなのです。「夢ばかり語って」と言われるかもしれないですが、今この国でビジョンを語れるのは、われわれ宇宙飛行士だけです。ですから僕たちは、未来に向けて何をしたいのか。金銭的な裏付けはないかもしれないし、国民的な危機に関するコンセンサスも取れていないかもしれないですが、われわれ現役宇宙飛行士が有人宇宙に対して何を考えているかは、皆さんと分かち合いたいと思います。
そのための仲間が、このメンバーです。今日、ここに来られなかったけれども、油井飛行士、大西飛行士、古川飛行士、そして宇宙にいる星出飛行士も含めて、今このメンバーが日本の有人宇宙飛行を支えています。現役宇宙飛行士たちです。
われわれが何を考えているのかを三つだけお話しします。われわれは種子島から宇宙に行きたい。そのためのロケットもあるし、ただ先ほど少し言いましたが、宇宙からカプセルを無事に戻す技術を、「はやぶさ」はやりましたね。しかし、人間は乗せていません。だから、人間が乗った船を安定して再突入させるための技術を、われわれは、技術者の方々と一緒になって研究を始めています。
次です。結局のところ、われわれの歴史は、人材を育てることにつながっていくと思います。若田さんは来年、宇宙ステーションにコマンダーとして初めて行きますね。日本の代表ですよ。ですから、われわれの本当に歴史の集大成がここにあります。しかし、僕の任務は若田さんを金井さんに移すことなのです。ですから、5年たったら、金井さんがきっと技術立国とか人類の使命とか、そういうことを格好良く語っていると思います。
最後に、宇宙の人間学。高柳さんが少しお話ししましたが、われわれの成果というのはどうしても理系の話になってしまうのです。しかし、そうではありません。われわれの成果は、人類全てのものであって、文系の皆さんも含めて、われわれの仲間になってほしい。
今、私は一生懸命社会心理の先生や言語学の先生と一緒になって、この人文学的な利用に関してのステップを始めています。もしかしたら将来、社会心理の学生さんが「おれ、分数の割り算ができないのだけど、この夏、月面のグループダイナミクスをやりに行かないといけないんだよね」みたいなことがあるかもしれないですね。
ですから、宇宙は理系だけではないのです。文系も理系も含めて、最終的に僕たちが目指しているのは、「総合智」です。これは何度も毛利さんが言われているので、今更と思われるかもしれないですが、僕たちは総合的な知を目指しています。宇宙に行ったわれわれの中にあるものは、最終的には皆さんにもたらされなければいけないので、そのための活動をこれからもしていきたいと思っています。現役宇宙飛行士と先輩方を含めてです。ですから、今10歳のあなたも、50年前に10歳だったあなたも、われわれと一緒に宇宙に付いてきてください。
室山 今日、私がディスカッションを聞いて思ったのは、皆さんが本音で語るこんなに面白いディスカッションも珍しいと思います。立花さんも、本当に説得力のあるお話をされていました。
しかし、こう引いて見ていると、僕には結局同じ話をされているように見えるのです。それは最後に野口さんが言われた「総合智」ですね。人間の冒険心だとか、知的好奇心だとか、「宇宙って何だ」「人間って何だ」「僕らはどこから来て、どこへ行くのだろう」「人間って何だろう」「どうやったら幸せになれるのだろう」「どんな社会をつくればいいのだろう」という知的好奇心を働かせて、自分の世界を広げてきたのが人間の進化でした。
方法論はいろいろあるのでしょうが、それをめぐっての議論を今日したということであれば、やはり人間のそういう未来を語る知的好奇心の固まりの方々がここに並んでお話をされたのだなと思います。そういう意味では、みんな本当に仲間なのだという気がしました。
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第1部レポート